関西最古の現代美術アートフェア「ART OSAKA」で、2022年に初めて開催された「Expanded」セクション。その3回目が開幕した。
同フェアは、ギャラリーがブース形式で出展する「Galleries」セクション(7月19日〜21日)と、通常のアートフェアでは発表する機会が少ない大型作品やインスタレーションを紹介する「Expanded」セクション(7月18日〜22日)の2部構成。
国指定重要文化財の大阪市中央公会堂を会場に開催される「Galleries」セクションでは今年、大阪、京都、東京、そして台湾と韓国などから45軒のギャラリーが出展。「Expanded」セクションは、大阪・北加賀屋にあるクリエイティブセンター大阪とkagoo(カグー)の2会場で行われ、22組のアーティストの作品が展示されている。
ART OSAKAを主催する一般社団法人日本現代美術振興協会の監事に務め、「Expanded」セクションの企画に携わった松尾良一(TEZUKAYAMA GALLERYオーナー)は、18日に行われたプレビューで次のように述べている。「Expandedセクションは、大型の作品を展示することでアーティストのポテンシャルを引き上げ、よりユニークな作品をつくってもらい、その魅力を引き出すことを目指している。それが結果的に企業や美術館などにコレクションされる流れをつくりたいと考えている」。
今年の特徴について、松尾は「美術手帖」の取材に対してこう話している。「今回も昨年よりグレードアップしており、大きな作品だけでなく、ニューメディアの作品など、バリエーションが増えている。また、このセクションは国際的になっており、今回は5ヶ国のアーティストが参加している。企業側もようやく認知してくれるようになり、サポートをお願いする際のリアクションもポジティブになってきた。企業がコレクションをしたいという意識も徐々に出てきている」。
クリエイティブセンター大阪の会場では、カンボジア出身のアーティスト、ソピアップ・ピッチ(小山登美夫ギャラリー)や松田幹也(MORI YU GALLERY)、葭村太一(Marco Gallery)など17組のアーティストが参加している。
1階のスペースでは、西山美なコ(Yoshimi Arts)が1997年に西宮市大谷記念美術館の個展で発表したステージのようなインスタレーション作品《♡あこがれのシンデレラステージ♡》(1996)を再現。2階で展示されている森公一+真下武久(サードギャラリーAya)のインスタレーション《呼吸する庭》(2024)も印象的だった。ガラスの容器のなかに置かれた植物が光合成によって二酸化炭素を吸収し、容器内の二酸化炭素濃度の変化によって音が奏でられる。また、鑑賞者が作品の前に座ると、その呼吸のリズムに合わせて作品全体が明滅し、植物と人がコミュニケーションしているようなものだ。
9軒のギャラリーが集まる3階の会場では、木彫作家・柄澤健介(AIN SOPH DISPATCH)がクスノキとパラフィンワックスを使い、川の流れと地形の関係性をテーマにした大型の彫刻作品が大きな存在感を放つ。biscuit galleryの展示では、大澤巴瑠がコピー機のガラス面にインクを垂らして印刷し、それを再度肉筆で複製するという手法で制作した平面作品を見ることができる。
4階の広大なスペースを使い、西野康造(アートコートギャラリー)は巨大な彫刻作品を発表。雲と宇宙のあいだに広がる「成層圏」をイメージに制作された作品は、設計図を使わずにすべて手作業でつくられたという。チタンの素材を1点ずつ溶接し、美しい曲線と構造体をつくり出していると同時に、空のダイナミックさと繊細さを表現し、景色のなかに現れては消えていくようだ。
過去2回を含めて、こうした大型作品の販売はどうなのかと松尾に尋ねると、次の回答が返ってきた。「作品が売れることもあるが、直接ここで購入というよりも、ここを見て後から話が来ることが多い。作家が認知され、作品が評価される場として機能している。我々の目的は、将来的にこれらのアーティストたちの作品がパブリックコレクションに加わることを目指している」。
同じ質問を、「Expanded」セクションのもうひとりの企画者である櫻岡聡(FINCH ARTSオーナー)に聞いたところ、櫻岡はこう答えた。「作品の展示段階で売約の話がいくつかあり、セールス面でも関西での売買の場として少しずつ定着してきたのではないかと思う。事務局としてはもっと面白いものや大きくて驚かせるような作品展示を促している」。
櫻岡が担当したkagoo(カグー)の会場では、5つのギャラリーによる展示が行われている。例えば、香港生まれで現在は日本在住のアーティスト、ケビン・リー(GALLERY HAYASHI + ART BRIDGE)は、香港が1997年に英国から中国に返還されたことを背景に、自身のアイデンティティの葛藤を描いた作品を発表。西村涼(アートゾーン神楽岡)は、昨年青森の国際芸術センター青森で滞在制作を行った際、青森の渓流をリサーチし、撮影した写真をもとに制作した版画などを展示している。
同会場では今年、「Expanded Plus」というセクションが新たに追加。会場の入口から奥まで続く白い壁面に小型のコレクタブルな作品やドローイングが並ぶ展示だ。また、大阪とドイツ・ハンブルク市の姉妹都市35周年を記念する特別企画展も会場の2階で行われており、ハンブルクで22年間活動しているMikiko Sato Galleryの企画によってマリエラ・モスラー、オリバー・ロス、ジョゼフィン・ベットガーといったハンブルクを拠点に活動する3人のアーティストの作品が紹介されている。
松尾は、過去2回の効果により今年は協賛に参加する企業が増え、Expandedセクションの会場周辺にも新たなアート拠点や、カフェ、レストランなどの商業施設が増えていると指摘。今年のフェア会期中には、北加賀屋エリアで様々な特別開館や展示が行われている。
例えば、7月19日〜21日の3日間限定で、大型作品の収蔵庫「MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)」や美術家・森村泰昌の個人美術館「M@M(モリムラ@ミュージアム)」、アーティスト・クリエイターのシェアスタジオ「Super Studio Kitakagaya(SSK)」などの周辺施設が特別に一般公開。加えて、8月にグランドオープンするサステナビリティやパーマカルチャーを体験できる複合施設「SMASELL Sustainable Commune」もプレオープン(7月20日〜21日)し、7月19日の夜にはオープニングパーティーが行われる。
来年は大阪・関西万博も予定されており、大阪はさらに国際的な注目を集めるに違いない。「アートの街という認識が高まっている」と松尾が言うように、ART OSAKAおよび北加賀屋エリアの今後の展開にも注目したい。