世界最長の美術番組『日曜美術館』の潮目が変わる? 現代美術家・松山智一を特集

アート界に大きな影響を持つNHKの『日曜美術館』はどのように特集を組んでいるのか? 現代美術家・松山智一を特集を手がけたディレクターの話からは、変わりつつある『日曜美術館』の姿が見えてきた。

日曜美術館「クラスター2020〜NY 美術家 松山智一の戦い〜」より

 毎週日曜朝9時(再放送は日曜20時)に放映されるNHK・Eテレの美術番組『日曜美術館』。1976年に放送が始まった同番組は、数あるテレビの美術番組でも最長の歴史を持ち、美術界への影響も絶大だ。

 『日曜美術館』は毎週異なる特集を組むスタイルを貫いており、個人のアーティストを取り上げることもあれば美術界の動向や美術館を取り上げることもある。そんななかで、まだまだ登場する機会が少ないのが現代美術の分野だ。日曜美術館で特集される美術分野としては、日本美術や西洋の古典美術が比率としては多く、若手・中堅の現代美術家が取り上げられることは数少ない。

 こうした特集はどのようなプロセスを経て決まっているのか?  2月21日放送予定の日曜美術館「クラスター2020 ~NY美術家 松山智一の戦い~」を担当し、同番組に2012年からディレクターとして参加している内田利元は、「地方局を含めた職員、制作プロダクション、そして 私のようなフリーランスなど、数多くのディレクターが自分の企画をA4ペラ1枚の提案書にまとめ、プレゼンする仕組み」だという。日曜美術館では歴代のプロデューサーをメンバーに加えた企画会議が毎月開かれる。その厳しい審査を通った企画が番組として制作され、トップダウンで決まることはないという。

「取材力、企画力、そして情熱が物を言う世界。なので地方局のディレクターがこれはと言う無名のアーティストを企画にして、番組になることもあります」。実際、田中一村や石田徹也など、この番組で発掘され、火がついた例もある。

 そんな『日曜美術館』でいま求められているものとは何か? それは社会的な問題にいかにリンクさせられるか、ということだと内田は言う。「社会事象とシンクロできるのは現代美術ならでは。だからこそ松山智一さんの企画は通ったんだと思います」。

日曜美術館「クラスター2020〜NY 美術家 松山智一の戦い〜」より

 今回の特集では、コロナ禍という未曽有の事態にアーティストである松山がどのように戦ったのかが、300日にわたってドキュメントされている。現代美術の中心地であるニューヨークで活躍し、日本でも高さ8メートルの彫刻を中心にした巨大パブリックアートで新宿駅東口の広場を一変させたことで話題になった松山だが、昨年3月の帰国中にニューヨークがロックダウン。10名のスタッフを現地に残し、帰れなくなった。

 「松山さんは精神的に追い詰められながら、ついにはその状況を逆手に取り 驚くような方法でこの時代を映す作品を制作し始めたんです。そこに疫病に対して身体だけでなく、心の面でも“免疫”を獲得し、乗り越えてきた人類の歴史を垣間見た気がしました」 (内田)。 

 松山は現在44歳。『日曜美術館』において、40代の日本人現代美術家が単独で取り上げられるのは2001年9月放送の「奈良美智×村上隆 ニューポップ宣言」以来、じつに20年ぶりのことだという。「社会や時代の変化と共に現代美術を積極的に取り上げていこうという気運が高まりつつあるのを感じます。美術をモチーフにより深く人間や社会について描けるかが問われているのではないかと思います」(内田)。

 これを機に、いまを生きるアーティストたちにさらなる光が当たることを期待したい。

日曜美術館「クラスター2020〜NY 美術家 松山智一の戦い〜」より

編集部

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