「もの派」の中心人物として知られる李禹煥(リー・ウーファン)が、新型コロナウイルスの感染拡大が続く状況についてのメッセージを発表した。
「今家に閉じ籠り、考え事に耽ったり、外を眺めている」という李はメッセージのなかで、自然の一部としてのウイルスの存在や人間の脆弱性、わずか1ヶ月ほどのあいだに大きく変化した地球環境、そして現代の「死」のあり方に言及。
「新型コロナウイルスは人類に大変な苦しみと多くの犠牲をもたらしたが、他方では自然の蘇生を促し、人間の両義性に気づかせた意義は大きい」としながら、以下のように締めくくった。 メッセージの全文は、SCAI THE BATHHOUSEのウェブサイトから読むことができる。
新型コロナウイルスの災禍は、期せずして人間を新たな地平に立たせた。今世界は、グローバリズムの画一性や自国中心主義、個人の放任主義の無謀さ危険性を露呈している。それらの元を質せば、外部を認めず、閉じた内部の構築と拡大への近代的な意志に突き当たる。新型コロナウイルスの広がりはそれらの立場と進行にストップをかけた。新型コロナウイルスの脅しは、実に文明を討つ人類への呼びかけでもあるということだ。従って、人類における外からやってきたウイルスとの闘いは、一方で内なる「人間」を止揚する闘いでもあるほかない。反省的にみれば、人類は新型コロナウイルスによって文明の再考のチャンスを与えられたのだ。 新型コロナウイルスのパンデミックで、人間の触れ合いや労働や移動が制限を受けるなかで、オンラインはじめAIやロボットの活躍が飛躍的に注目されるようになった。それで気になるのは、映像による距離と効率性とスピードを重視するあまり、人間嫌に陥り、身体性の否定を招かぬかどうか、また労働力がすべて人間を離れたものにならぬかどうかだ。身体の能力は、人間の自然性のバロメーターである。コンピューターの力の過信により、人間の労働力を上回る欲望の無制限な生産を目指す破滅的な愚考が行われぬことを祈るばかりだ。滅亡を避け、生き延びるために、反省力と自制心を磨こうではないか。真の自制心とは自らの声を聞くことである。 つまり法律や権力や自意識ではなく、己れの根源である自然の理法、身体感覚による宇宙のメカニズムに添うことである。言い直せば個人の意志や国家の統制を越えて、人類と自然の対話の上に、生きた世界の関係性に目覚めることである。新型コロナウイルスの出現とそれとの闘いで、経験した恐怖と希望のメッセージを、はたして人類は心して受け止められるかどうか。 2020年4月22日 李禹煥 ──SCAI THE BATHHOUSE ウェブサイトより