フランス南東部の村・オートリーヴには、ある「宮殿」が存在する。
その宮殿とは、郵便配達員のジョゼフ=フェルディナン・シュヴァル(1836〜1924)がたったひとりで石を拾い集め、すべて手作業で築き上げた、通称「シュヴァルの理想宮」だ。
1879〜1912年の33年間もの月日を費やして建てられたこの宮殿は、アンドレ・ブルトンを筆頭としたシュルレアリスムの作家やパブロ・ピカソを魅了し、69年にはフランス政府の重要建造物に指定された。
今回、この宮殿にまつわるエピソードを映画化したのは、映画『エトワール』(2000)『グレート デイズ!―夢に挑んだ父と子―』(2014)などの監督作で知られるニルス・タヴェルニエ。寡黙で不器用な郵便配達員のシュヴァルが、愛娘・アリスのために「おとぎの国の宮殿」を建てるという挑戦を思いつき、人々に嘲笑されながらも地道に石を運び、積み上げる日々と過酷な運命を描く。
タヴェルニエを演じるのは、映画『レセ・パセ 自由への通行許可証』(2002)でベルリン国際映画祭男優賞を受賞したジャック・ガンブラン。妻・フィロメーヌ役にはレティシア・カスタを迎える。
ほぼ全編の撮影を実際の「シュヴァルの理想宮」で行ったという本作。その映像美で、「素朴派(19〜20世紀の絵画の一傾向)唯一の建築」とも称される宮殿の造形も堪能してほしい。