「あいちトリエンナーレ2019」における「表現の不自由展・その後」の展示中止を受けて設置された「あいちトリエンナーレのあり方検証委員会」。8月16日の第1回を経て、9月17日に愛知県庁で第2回会合が開催された。
出席者は、委員会のメンバーである国立国際美術館館長・山梨俊夫(座長)、慶應義塾大学総合政策学部教授・上山信一(副座長)、アグロスパシア株式会社取締役兼編集長・岩渕潤子、国立美術館理事・太下義之、信州大学人文学部教授・金井直、京都大学大学院法学研究科教授・曽我部真裕の6名。
山梨座長は冒頭、「『表現の不自由展』の実施段階までについて、同展の一部の参加作家や芸術監督を選出する委員会の委員長など、20名ほどにヒアリングを行った。当初より作業が膨大になってきて、今日は中間報告の前段階となるが、今後も検証作業を続けていきたい」とコメント。今回はそれぞれの委員が、専門分野について「主な検証ポイント」を設定し、関係者や有識者へのヒアリングをもとに発表を行った。
太下は、実際に実行委員会に寄せられた抗議電話の音声を計4本紹介。「電凸」のマニュアルがSNS上で共有されていたことや、ひとりの職員が受ける心理的なダメージの大きさを指摘し、展示中止の直接の原因はこうした「ソーシャルメディア型のソフト・テロ」であることを示した。また、キュレーションの自律性を尊重しつつ適切なマネジメントを行う方法として、あいちトリエンナーレ実行委員会のなかに諮問委員会(アーツカウンシル)を設置する、もしくは愛知県に諮問委員会を設置しその一環としてトリエンナーレに関する業務を担う、という2案を提示。その際、諮問委員会の大原則として「お金は出しても口は出さない」ことの重要性を訴えた。
上山は、時系列を追って「表現の不自由展」の企画段階から展示中止にいたるまでの問題を整理。まず同展は「表現の不自由展」実行委員会、芸術監督、キュレーターチーム、事務局の4者で進める契約だったが、キュレーターチームの一連のプロセスへの関与が極めて限定的であったことを指摘。また契約に関しては会期直前まで議論が行われており、時間と予算が限られたなか、芸術監督である津田大介が費用の負担・建て替えやウェブサイトの提供を行ったことは不適切だったと述べた。そのほかにも、展示室内の写真・SNSの禁止に関わる議論も、混乱を招く大きな要因となったことを指摘した。
また金井は、「表現の不自由展」の展示室にいたる導線設計を中心に検証。一定のゾーニングには成功していたとしながら、作品の量や質と照らし合わせると展示室は狭く、ひとつのナラティヴを見せるには窮屈な環境であったとコメントした。また同展について、少女像という「もの」と、それにまつわる「こと」のどちらを見せたいのか不明確であったことを指摘。どちらかに重点を置いていれば、それに沿ったキュレーションを行うことができたのではないか、との見解を示した。
いっぽう岩渕は少女像そのものが持つ歴史や、世界で起きた検閲の事例を検証。少女像は韓国だけでなく世界12ヶ所に設置され、海外では日韓情勢とは関係なく人権運動・フェミニズム運動の象徴とされていること、また「慰安婦像」という呼称を使っているのは現時点で日本だけであることを紹介。しかし公立美術館で展示を行う際には、用語等の解釈をめぐって誤解が生まれないよう、補足説明を行うべきだったと述べた。
そして曽我部は「表現の自由」という言葉に関する問題を整理し、1. 今回は公金を使って県立美術館で表現の場を提供する/しない、が争点となっており、憲法上の「表現の自由」がストレートに問題となる事案ではない 2. 「表現の不自由展」実行委員会とあいちトリエンナーレ実行委員会は基本的に契約関係にあり、中止についても「表現の自由」が問われるというよりは契約の問題で、検閲とは言えない 3. 芸術監督、あいちトリエンナーレ実行委員会、県・市の3者の関係では、芸術部門によるキュレーションの自律性の尊重が求められる、という3点を提示。今後も中止判断や契約関係を巡る問題について、さらなる検証を行うことを表明した。
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今回は全体を通して、作家の意図を伝えるためのキュレーションや会場構成、意思疎通や協力関係に関わる組織の構造、公的なプロジェクトにおけるマネジメントやガバナンスのあり方などに問題点を絞って発表が行われた。山梨座長は、今後事実関係のヒアリングを進めるとともに将来に向けた検証を行い、9月21日の公開フォーラムを経て、9月中には中間報告をまとめる考えを示している。