美人画の名手として、上村松園と並び称された日本画家・鏑木清方(1878〜1972)。その幻とされてきた作品が、東京国立近代美術館に新収蔵された。
収蔵されたのは、清方の代表作として知られながら1975年以来所在不明であった《築地明石町》(1927)と、あわせて三部作となる《新富町》《浜町河岸》(ともに1930)の3点。
このうち《築地明石町》は帝国美術院賞を受賞し、清方を名実ともに日本を代表する画家のひとりに押し上げた作品で、モデルとなっているのは清方夫人の女学校時代の友人であった江木ませ子。水色のペンキが塗られた洋館の垣根や朝顔が描かれ、辺りは朝霧で白く霞んでいる。佃の入江に停泊した帆船のマストを背景に、髪をイギリス巻にし、単衣の小紋の着物に黒い羽織姿の女性像。本作は、清方が「明治20年代から30年代の人々の生活」というテーマに行き着いた、画業の後半のスタートラインに位置する作品だという。
この作品は運良く戦禍を免れ、清方の手によってしばしば展覧会に出品されていた。しかし、1972年に清方が逝去した後、翌年から3回にわたってサントリー美術館で開催された「回想の清方」シリーズの3回目(1975年)に出品されたのを最後に《築地明石町》は行方不明となり、それ以来44年もの間、見つかることはなかった。
しかし今年になってから事態は急変。捜索を続けていた同館が、個人所蔵者から銀座の画商を通じて購入し、収蔵にいたった。また同館はこれと同時に、同じく所在不明だった《新富町》《浜町河岸》も購入。3作品あわせた購入額は5億4000万円だという。
これらは、11月1日から開催される企画展「鏑木清方 幻の《築地明石町》特別公開」にて初披露される。加えて同展では、重要文化財《三遊亭円朝像》(1930)や12幅対の《明治風俗十二ヶ月》(1935)なども出品。全13件で清方の世界を紹介する。
なお清方の没後50年となる2022年には、同館および京都国立近代美術館で「没後50年 鏑木清方展」(仮称)を開催予定となっている。