2019.2.27

GINZA SIXに塩田千春の新作《6つの船》が登場。塩田が銀座の「記憶の海」を語る

草間彌生、ダニエル・ビュレン、ニコラ・ビュフといったアーティストの作品が空間を彩ってきた、GINZA SIXの中央吹き抜け。ここに、2月22日より塩田千春の新作《6つの船》が登場した。全長5メートルの6隻の船が意味するものとは?

GINZA SIXの吹き抜けに浮かぶ《6つの船》
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 2017年春の開館以来、国際的なアーティストが吹き抜け空間を演出してきた東京・銀座のGINZA SIX。その第4弾として、塩田千春の新作インスタレーション《6つの船》が2月27日に披露された。

 塩田は1972年大阪府出身。京都精華大学芸術学部洋画専攻を卒業後、ハンブルグ美術大学に入学。その後ブラウンシュバイク美術大学に在籍し、マリーナ・アブラモヴィッチに師事。ベルリン芸術大学ではレベッカ・ホルンに師事し、現在もベルリンを拠点に活動。空間に糸を張り巡らせた展示や、履き古された膨大な数の靴を使った展示など、大規模なインスタレーションで知られる。

 GINZA SIXの「SIX」にちなみ、6隻の船からなる《6つの船》。「船」は人や物だけでなく、時間をも運びながら前進するものであり、「存在とは何か。生きているとはどういう意味なのか。私たちは何を求めて、どこへ向かおうとしているのか」を追求してきた塩田の問いに共鳴する。

階ごとに異なる表情を見せる作品

 今回の展示に合わせベルリンから一時帰国中の塩田は、船のモチーフについて次のように話す。「作品のテーマは“記憶の船”。船は、それぞれが方向を決め、前に進んでいくもの。GINZA SIXは華やかな場所なので、そのイメージ意識しながら船の方向を決めました。橋が多くあることからもわかるとおり、銀座は昔、半島だったそうなんです。そういう意味でも、いろんな時代を重ねてきた銀座には船が合うと感じました」。

 全長5メートルにおよぶ黒い船はフェルトでできており、塩田はその意図について、「フェルトは絵筆と同じように、幅によっては面にも線にもなる。今回フェルトを選んだのは、空間に線が描きやすく、その線がきれいに見えると思ったからです」と説明する。

作品を5階から眺めた様子

 ヴェネチア・ビエンナーレやモスクワ・ビエンナーレといった国際展に多数参加し、通常は美術館やギャラリーなどで作品発表を行う塩田にとって、商業施設での展示は珍しい機会となる。2017年にはパリの百貨店「ボン・マルシェ」で、大小様々な150隻の白い船、黒い糸からなるインスタレーション展示「Where are we going?」を行ったが、今回の《6つの船》では、それらを反転させたかのような配色が印象的だ。

 「GINZA SIXの内装のシャンパンゴールドに合わせて、作品のトーンは白が基調となるようにしました。白は時空を超えて宇宙にいけるようなイメージ。黒い糸だと重く、赤い糸だと強すぎる。“記憶の船”というテーマに白はぴったりだと思いました。ショッピングに訪れた人が作品を見ることで、美術の楽しさを知ってもらえたら嬉しいです」。

 じつは当初、GINZA SIXの空間吹き抜けの構想にあたって、6艘の船ではなく、赤いドレスのプランも存在していた。しかし、それらは「強すぎる」との塩田の最終的な判断によって実現に至らなかった。​

下から見上げると、6枚の花弁のようなかたちを見せる

​ 「作品だけが“よく見える”ことがこの展示にとっての成功ではありません。空間を使った作品では、その場やショップとの調和も考え、作品の主張が強すぎないことに留意しています」。《6つの船》はその角度によって様々な表情を見せ、真上、あるいは真下から見上げると1輪の花のようなイメージもかたちづくる。吹き抜け空間を取り囲むスペースの様々な角度から眺めてほしい作品だ。

 今年6月には森美術館で大規模な個展「塩田千春展:魂がふるえる」が控えている塩田。約20年の活動を振り返る本展について、「森美術館での個展は、私のすべてが集まるような展覧会。そして私にとっても、“塩田千春になるために私は生まれた”と実感するような展示になると思います」と語った。

 塩田によって重要なモチーフである「船」。森美術館でも「船」をモチーフとした2つの作品が出品予定だが、GINZA SIXでいち早くその作品世界に触れてはいかがだろうか。

塩田千春