白黒テレビに映し出される討論番組でフェルトの帽子を被った一人の芸術家が苛立ち、こう叫んだ。「いまは民主主義がない、だから俺は挑発する!」
アーティストの名はヨーゼフ・ボイス(1921〜86)。初期フルクサスにも参加し、「脂」や「フェルト」を使った彫刻やパフォーマンス、観客との対話を作品とするボイスの活動は、いまなお多くのアーティストに大きな影響を与え続けている。そして1972年以降、政治的な活動を活発化させたボイスは、誰もが未来に向けて社会を彫刻しうるとする「社会彫刻」という概念を生み出した。
本ドキュメンタリーでは、7000本の樫の木を植えるプロジェクトや、ギャラリーの中で死んだ野うさぎを腕に抱くといったセンセーショナルなパフォーマンスの根幹にある、ボイス自身の傷への眼差しを映し出す。