想田和弘は、台本やナレーション、BGMを排し、事前の打ち合わせやリサーチを行わないことで、客観性や臨場感を追求する「観察映画」を製作してきたドキュメンタリー映画監督。その手法は映像人類学の分野における映像制作にも通じ、『リヴァイアサン』などで知られる人類学者兼映像作家、ルシアン・キャスティーヌ=テイラー&ヴェレナ・パラヴェル(『美術手帖』6月号でインタビューを掲載)とも親交が深い。
本作は、アメリカ・ミシガン大学の客員教授として招聘された想田が、学生を含む16人の映画作家たちとの共同プロジェクトとして撮影。同大学の名門アメフトチームの本拠地である、10万人規模のスタジアム「ザ・ビッグハウス」を舞台に、選手や観客、バックヤードのスタッフら、ゲームに関わる様々な人たちの様相を記録した。
映し出されるのは、大人気スポーツであるカレッジ・フットボールの試合の圧倒的なスケールや、人々の熱狂にとどまらず、スタジアム周辺のダフ屋たち、寄付金集めのキャンペーンなど、格差や財政、人種、宗教の問題を想起させる場面も。撮影が行われたのは、ドナルド・トランプが当選した大統領選挙のさなか。解釈の余地を残した映像の端々に、現代アメリカの社会状況が浮かび上がってくる作品だ。
また、公開に先立ち6月2日〜8日には、シアター・イメージフォーラム(東京)で、タブーとされてきた精神科での撮影を行った『精神』(2008)や劇作家・平田オリザの活動に密着した二部作『演劇1』『演劇2』(ともに2012)、今年公開された『港町』(2018)など、想田の過去作品を一挙上映する特集上映企画「想田和弘と世界」も開催される。