香港情勢を背景としたその視線は何をとらえるのか。リー・キット「息をのむような虚ろな視線」がシュウゴアーツで開催へ

シュウゴアーツで、3年ぶりとなるリー・キットの個展「息をのむような虚ろな視線」が開催される。会期は11月18日〜12月23日。

リー・キット A blank stare 2023  inkjet print on watercolor paper 66.7x50cm ed.20Copyright the artist, Courtesy of ShugoArts

 東京・六本木のギャラリー・シュウゴアーツで、3年ぶりとなるリー・キットの個展「息をのむような虚ろな視線」が開催される。会期は11月18日〜12月23日。

 リー・キットは1978年香港生まれ。台北を拠点に欧米アジア各地で活躍するアーティストで、プロジェクターによる光、映像、音、言葉やファウンド・オブジェなどのメディアを素材として用いながら、絵画表現の拡張を図るような先鋭的な作品を制作してきた。また、香港という世界情勢に揺れ動いてきた都市を出自とするリーは、同時代の社会情勢や政治にも向き合っている。様々な土地の空気や感情を反映させたサイトスペシフィックな展示空間は、繊細な表現を通して観客に社会や他者との関係性を想起させるものが多い。

 2014年の雨傘運動を皮切りに本格化した香港の民主化運動は、19年にはその推定参加者が80万人を超え、治安維持法の可決により1万人以上の逮捕者や死傷者を発生させた。22年の時点では20万人以上もの国民が流出したと言われている。

リー・キット Advertisement 2023 inkjet print on watercolor paper  66.7x50cm  ed.20 
Copyright the artist, Courtesy of ShugoArts

 本展では如何に芸術表現を通じてそれらを語り続けることができるかをリー自身が実践する場となる。今回は2018年の原美術館での個展以来、久しぶりの本人によるインスタレーションが行われる。

その風景は呼吸ができなかった。
Bは独り言を言っていた。彼はそれを警戒し、止めようとしていた。
しかし彼に話しかけているのは彼自身なのだ。
Bは目の前の美しい風景を表す言葉を探していた。彼はその景色が息絶えそうになっていると感じていた。
彼はゆっくりと息を吐き、次第に弱まる気息を捉えようと再び息を吸い込むのをじっと耐えていた。
彼はある程度心地よく静かな生活の中で、落ち着きを見出すことは難しいと感じている。
彼は人生には何層もの重なりがあるかのように、実際それはそうなのだが、一つ一つ剥がしていくことが好きで、そして未だに平和な孤独に到達できない。結局今も、何かに対して激しい怒りが存在しそれが平静を阻むのだった。
時に傷つきやすい人はよき聞き手となる。風景に耳を傾けている時、Bは動かなかった。ただぼんやりと座っていた。Bはかつてある人に、勇気を持ち、決して何も恐れるべきではないと告げられたことを思い出していた。そう言った本人こそ、自分が何かを恐れていることを知り、受け入れることを恐れていた。
凝視することは息をし続けるためのよい手段だ。起こりうるあらゆることの前に、まずはひどい出来事について考え続ける。
過去と現在の、そっと突然息をのむような、その音に耳をそばだてる。
リー・キット 2023年10月 (リー・キット個展「息をのむような虚ろな視線」プレスリリースより抜粋)
リー・キット Outsider skyscape 3 2023 Spray paint on stainless steel 120 x 85cm Copyright the artist, Courtesy of ShugoArts

編集部

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