世田谷美術館が、同館収蔵作家から立体、平面、絵本など多岐にわたる仕事を手がけている土方久功(1900〜1977)と柚木沙弥郎(1922〜 )を取り上げる企画展「土方久功と柚木沙弥郎 熱き体験と創作の愉しみ」を開催する。会期は9月9日〜11月5日。
土方久功は、東京美術学校(現・東京藝術大学)彫刻科を卒業後、1929年から42年まで、当時日本の委任統治領であったパラオ諸島や、カロリン諸島中部のサタワル島で過ごす。現地の人々と生活しながら制作に励むいっぽうで、周辺の島々を巡り、生活様式や儀礼、神話などの詳細な調査も行った。帰国後は世田谷区の自宅で、ミクロネシアの人物や風景を主題とした木彫レリーフやブロンズ彫刻、水彩画を数多く制作。民族誌学的調査の成果をまとめた著書や、詩集、絵本も出版している。
いっぽう柚木沙弥郎は東京帝国大学(現・東京大学)文学部美学美術史科で学んだ後、柳宗悦が提唱する「民藝」の思想と、芹沢銈介の型染カレンダーとの出会いを機に染色の道を志す。以来、鮮やかな色彩と大胆な構図の型染による作品を発表するほか、立体作品、絵本まで精力的な創作活動を展開。100歳を迎えてなお活躍を続けている。
この両者に直接的な接点はないものの、ともに多彩な表現の広がりをみせることは共通している。この展覧会では、収蔵品に加え、作家・遺族が所蔵する作品と資料を展覧することで、パラオ諸島や周辺の島々での稀有な体験、そして日常の身近なものや出来事に潜む面白さを源泉として生まれた二人の創造の世界を紹介するという。
展示は「土方久功―パラオ諸島、サタワル島で過ごした日々への憧憬」「柚木沙弥郎―“自由であること” 楽しみを見つける日々の営みから生まれる創作」の2部構成。土方のパートでは、雑誌『母の友』(福音館書店)の挿絵原画が初公開される。また柚木のパートでは、『トコとグーグーとキキ』のサーカスの場面を背景に、柚木が身近にあった様々な布裂(ぬのきれ)などを使ってつくったという指人形《町の人々》を展示。絵本の世界が体感できるだろう。