フランスの詩人アンドレ・ブルトンが提唱したシュルレアリスムは、20世紀の芸術にもっとも影響を及ぼした芸術運動運動のひとつ。シュルレアリストが理性を中心とした近代的な考え方を批判し、理性の及ばない無意識の世界の表現を追求するいっぽうで、日本では、それらが現実離れした幻想的な世界を描くものとして受け入れられ、次第に「シュール」という独自の感覚が醸成されるようになった。
今回、箱根のポーラ美術館で開催される「シュルレアリスムと絵画 ―ダリ、エルンストと日本の『シュール』」展は、シュールと呼ばれる独自の表現への展開を示す作品を紹介。現代美術家・束芋の作品約10点と、成田亨によるウルトラマン原画6点(会期中展示替えあり)のほか、参考資料として、マンガ家・つげ義春の代表作『ねじ式』も展示されるという。
手描きのアニメーションを用いた映像インスタレーションで知られる束芋は、心の奥底に秘められた意識や、現代の日本社会に潜在する複雑な諸相を表す作品で高い評価を得てきた。近年では、日本の伝統的な芸術にも関心を寄せ、近世の絵画からインスピレーションを得て白無地の軸装に映像を投影する《虫の声》(2016)なども手がける。
本展では、日本初公開の同作と《dolefullhouse》(2007)の2点の映像インスタレーションのほか、2019年に発表された版画シリーズ「ghost-running」などを紹介。また本展に合わせ、展示室の幅9メートルの壁にドローイングも描かれるという。完成されたドローイングは、12月15日より見ることができる。
また、ウルトラマンの原画を手がけた成田は、シュルレアリスムの表現を研究し、自身が描く怪獣には、ダダイズムにちなんだ「ダダ」や「ブルトン」といった名前を用いた。
デジタル合成技術のない時代、成田は「巨大な怪獣のリアルな映像化を実現する」というテーマのもと、身近なものをときに変形させながら組み合わせることで、異なるスケールの世界を創りあげることに成功。現実には存在しない世界をリアルに表現するその手法は、コラージュの異種混合の実験が導く新たなイメージの創出に通じている。
同館では、シュルレアリスム誕生から日本における超現実主義の展開に焦点を当てる展覧会「シュルレアリスムと絵画」も同時開催。様々な角度からシュルレアリスムを理解し、その世界観を堪能することができる。