吉田十七歳は1998年三重県生まれ。美大受験に失敗し、1年間地元のショッピングモールの飲食店でアルバイトとして働いたのち、昨年パープルーム予備校5期生として同校に入学。神奈川県相模原市に制作と生活の拠点を移した。
美大の日本画科の受験を断念し、アカデミックな美術教育が十分にインストールされなかった吉田は、様々なルールに拘束されずに制作をスタートすることができ、活動初期からごく自然と「抽象」に取り組んできた。
一連の作品群には、四角や三角、丸などの幾何学的な形態が繰り返し登場するが、それらは吉田にとって身近なものや過去の絵画の記憶を幾何学に還元したものではないという。
一見すると、機能不全を起こしているモダニズムと身近なものや個人の経験をボーダレスに接続する「フラジャイル・モダン・ペインティング」と近しく見える吉田の作品だが、作家自身はそれとは違った抽象絵画を志向する。
例えば「フラジャイル・モダン・ペインティング」の画家たちが、定型の文法に微妙なニュアンスを与え、鑑賞者に解釈を委ねるいっぽうで、吉田は絵画鑑賞の際に「(鑑賞者の)目をうにょっとさせたい。目を運動させたい」と語る。このアプローチは作品を前に微動だにしない鑑賞者に対して、動くことを要請するものだ。
今回、吉田の個展「劣等生だけ死なないで」が、相模原市のパープルームギャラリーで開催される。本展は、吉田がこの1年間取り組んできた抽象画のシリーズと自身のエッセイによって構成。
展覧会タイトルにある「劣等生」というワードは、美術家の梅津庸一が美大教育とコマーシャルギャラリーで扱われていた絵画を相対化したテキスト『優等生の蒙古斑』(2012)への吉田からの応答だという。本展では、吉田の作品がいかなる理念によって駆動しているのか、その一端を見ることができるかもしれない。