日本のコンセプチュアル・アーティストを代表するひとりとして、戦後美術の中でもひときわ異彩を放った松澤宥(1922〜2006)。松澤は1922年長野県諏訪郡下諏訪町生まれ。46年の早稲田大学理工学部建築学科を卒業後、詩を出発点に絵画を制作し始めた。
しかしその後の64年、「オブジェを消せ」という啓示を受け、「日本概念派」を開祖。それ以来、松澤は、絵画やオブジェにとって切り離せない要素である造形や色彩を排除し、言語や意味などの非物質を媒体に創作活動を行うようになった。啓示を受けたときのことについて、松澤は、自筆年譜にこう記している。
「6月1日の深夜、裏座敷に寝ていた私は、‘オブジェを消せ’という声を聞いた。私にとってそれは、美術を文章だけで表現せよという意味であることを疑いもしなかった」。
今回、そんな松澤による未公開のドローイング作品が、神奈川県相模原市のパープルームギャラリーで展示される。最近発見されたという一連の作品群は、いずれも松澤が「オブジェを消せ」の啓示を受ける直前の50~60年代に描かれたもの。その謎めいた内容によって、松澤作品の調査と研究が開始されている。
東京から遠く離れた下諏訪で「フリー・コミューン」を形成した松澤の試みを紐解く本展。郊外の相模原市を拠点に「不定形の理想共同体」を標榜し活動してきたパープルームにとって、今後の精神的支柱となることが予見される。