「Identity」は、東京・京橋のnca | nichido contemporary artが、2008年から毎年ゲストキュレーターを迎え、様々な視点からアイデンティティについて考察する展覧会シリーズ。今年は8月に開催されるあいちトリエンナーレのキュレーター、また第57回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展(2017)で日本館のキュレーションを務めた鷲田めるろを迎える。
カタカナの「アイデンティティ」が「自己同一性」を意味するのに対し、英語の「Identity」は「何かと何かが同じであること」とより広い語義を持つ。この展覧会シリーズはローマ字で「Identity」と表記され、今回は友枝望、澤田華、ジェームズ・ジャックの3名が参加する。
友枝は、コップやカメラなどグローバル企業による同じ型の製品をふたつ並べて比較するシリーズを制作するアーティスト。並べられたふたつは一見まったく同一のものに見えるが、よく見ると「Made in Germany」「Made in Singapore」など異なる生産国が表記されている。きわめてミニマルな作風でありながらその作品は、製品の同一性を問うことで製品のモジュール化、グローバル・バリュー・チェーンによる生産、そして、世界の生活様式の同一化まで、現代社会の課題を広く問いかける。
そして印刷物やウェブサイト上の写真にわずかに写り込んだ「正体不明の何か」に目を向け、調査することで「写されたもの」の認識を問う澤田は、本展でモダンデザインの本に掲載された庭のランプの写真に「正体不明の何か」が写り込んでいることに着目。この物体のアイデンティティを執拗に、そして過剰に調べるプロセスを作品化している。最後までそれが何であるかは未明のままだが、それこそが「それが何であるか」を問い続けなければ気が済まない意味を求めてしまう人々の欲望を露わにする。
またジェームズはアメリカ生まれだが長く日本に住み、現在はシンガポールを拠点に活動を行っている。今回展示する作品は、南太平洋の植物をモチーフにしたドローイングだ。歴史を細かく遡っていくなかで、人の移動に伴って様々な植物の移動があったことを知ったジェームズは、日本の帝国主義的な南方進出に伴って植物の調査と標本の収集を行った学者・金平亮三の植物画を参照しながら、移動した植物を描く。移動しながら作品を制作する自らのアイデンティティと、移動する植物の歴史を、ポストコロニアルな視点で重ね合わせる作品となっている。