米田知子は1965年兵庫県生まれ、91年にロイヤル・カレッジ・オブ・アートを修了。以来ロンドンを拠点に、国内外で写真作品を発表してきた。近年は個展「暗なきところで逢えれば」(東京都写真美術館、2014)を開催したほか、「カタストロフと美術のちから」(森美術館、2018)、「トラベラー:まだ⾒ぬ地を踏むために」(国⽴国際美術館、2018)に参加。
関心対象の入念なリサーチの後、歴史的な記憶が強く残る場所を訪れ、写真に収めるというスタイルで制作を続ける米田。これまで訪れた場所に、自身の郷里であり阪神淡路⼤震災で壊滅的な被害を受けた阪神地区、台湾・台北各所に残存する⽇本占領統治時代の⽇本⾵家屋、レジスタンスの秘かな拠点だったイタリアの⼯場地区などがある。
そして今回米田がモチーフに選んだのは、『異邦人』『ペスト』などで知られるフランスの小説家、アルベール・カミュ(1931~60)。カミュはアルジェリアで入植者の家系に生まれ、2つの世界大戦や移民差別、政治問題に翻弄されながら、「暴力に満ちた不条理な世界で我々はどうあるべきか」という主題を繰り返し追求した。
米田は、その足跡をたどるべくアルジェリアとフランスへ渡航。1914年に第一次世界大戦下のフランスで戦死したカミュの父を起点に、アルジェやティパサ、マルセイユ、パリなどの都市を訪れ、カミュが見た世界に自らの眼差しを重ね合わせながら制作を行った。
同シリーズは、パリ日本文化会館(2018)、上海ビエンナーレ(2018-19)での展示を経て、東京では初公開となる。本展では写真作品のほか、フィンランドを代表する現代音楽家、トミ・ライサネンによるサウンドインスタレーションを組み込んだ映像作品を見ることができる。
なお米田は来年、初となる包括的な写真集を出版予定。場所に眠る記憶と歴史を見つめ続けてきた米田のさらなる活躍に、期待が高まる。