2019.2.15

マリオ・ガルシア・トレス展「時のなかで重なり合って」をチェック。偶然を紡いで生み出される視覚的エッセイとは

メキシコを拠点とするアーティスト、マリオ・ガルシア・トレスの個展「時のなかで重なり合って」が、六本木のタカ・イシイギャラリー東京で開催される。会期は2月23日〜3月16日。

マリオ・ガルシア・トレス “I Painted This Monochrome While Listening to Van Halen's Jump” at the artist studio in Mexico City © Mario García Torres

 マリオ・ガルシア・トレスは、1975年メキシコ・モンクローバ生まれのアーティスト。2005年にカリフォルニア芸術大学で修士号を取得し、現在もメキシコシティを拠点に活動を行っている。

 これまで、アムステルダム市立美術館やペレス美術館、フォートワース現代美術館での個展のほか、「マニフェスタ11」(チューリヒ、2016)、「第8回ベルリン・ビエンナーレ」(2014)、「ドクメンタ13」(カッセル、2012)といった国際展にも参加してきたガルシア・トレス。現在もミネアポリスのウォーカー・アート・センターで個展「Illusion Brought Me Here」を開催中だ(〜2月17日)。

 そして今回、六本木のタカ・イシイギャラリー東京で個展「時のなかで重なり合って」が開催される。本展は、偶然の一致、記憶、終焉、反復、過渡期の瞬間を照射する展覧会となる。

 本展では、81年のロサンゼルスで当時39歳だったボクサー、モハメド・アリが自身最後となる試合に臨む前に、高層ビルから飛び降りようとする男の命を救ったことや、同年、同じロサンゼルスでロックミュージシャンのエディ・ヴァン・ヘイレンによって、のちに大ヒットする楽曲『ジャンプ』が生み出されたことなど、実際にあったエピソードどうしが紐付けて展開されていく。

 ガルシア・トレスの紡ぐ物語は、そこで語られる一連の出来事がすべて重なり合い、興味深い偶然の一致を見せる。本展で発表されるビデオ作品を通じて、ガルシア・トレスは哲学とポップ・カルチャーを織り交ぜながら、時間/人生の限りない多面性を説き起こすことを試みる。

 このビデオ作品とあわせて、増田哲治の協力を得て制作されたアナログシンセサイザーや、同作のコンセプトから着想を得た複数のペインティング、そしてヴァン・ヘイレンが来日した際の記録文書が展示される。

 ガルシア・トレスは、この20年間にわたって、アートと大衆文化の物語の隙間を、映像、写真、立体といった多様なメディアを用いて詩的に綴ってきた。これまで探究されてこなかった歴史の側面に着目し、事実とフィクションとの間に平行関係を導き出す一連の作品群は、人々の記憶や理解に潜む曖昧さや食い違いを浮かび上がらせるだろう。