ソフィ・カルは1953年パリ生まれ。1998年のテート・ギャラリー(ロンドン)、2003年のポンピドゥー・センター(パリ)など、世界各地で個展を開催してきた。
ホテルでメイドをしながら宿泊客の部屋の様子を撮影した《ホテル》(1981)、拾ったアドレス帳に載っていた人々に、その持ち主についてのインタビューを行い日刊紙に連載した《アドレス帳》(1983)など、センセーショナルな作品の数々は常に論争を巻き起こしている。
本展は、1999年に原美術館で開催された個展「限局性激痛」をフルスケールで再現したもの。「限局性激痛」とは、身体の狭い範囲を襲う鋭い痛みや苦しみを意味する医学用語。カルはこの言葉を自身の失恋体験になぞらえ、痛みとその治癒を写真と文章で作品化した。
展覧会は二部構成のかたちをとる。第1部では、人生最悪の日までの出来事を、最愛の人への手紙や写真でつづる。第2部では自らの不幸話を他人に語り、代わりに相手のもっともつらい体験を聞くことで自身の心の傷を少しずつ癒やしていく過程が、写真と刺繍によってつづられる。
第1部で被写体となった地図やポラロイドなどの品々は、15年間も封印されていたという。しかしカル自身が制作を決めて開封し、それから数年をかけて本作が完成。自分の人生をさらけ出して他人の人生に向き合ういっぽう、そこには虚実の判然としない曖昧さも漂い、鑑賞者にさまざまな問いを投げかける作品となっている。
なお、本展と同時期に東京・銀座のギャラリー小柳(2月2日~3月5日)、六本木のペロタン東京(2月2日~3月11日)でも個展が開催予定。カルの作品世界を、さまざまな角度から見る絶好の機会となりそうだ。