村上友晴は、1938年福島県生まれの画家。幼少期を東京・上野で過ごし、古美術に親しんだ。特に「墨」の表現に興味を持ち、東京藝術大学では日本画を専攻する。しかし岩絵具を使った日本画の技法に馴染めず、卒業後は黒の油彩を使った絵画制作を追求。
64年には「グッゲンハイム国際賞 1964展」に田中敦子、吉原治良らとともに出展。これを機に村上は初めて渡米し、当時の抽象表現主義の絵画に衝撃を受けたという。
村上の作品に終始一貫しているのは、筆を使わず、ペインティングナイフで注意深く密やかに絵具を置きながら画面を作り上げていく姿勢だ。この手法は60年代から現在まで続くが、90年代からは白い紙にニードルや鉛筆で削る、消すなどのデリケートな痕跡を残した新しい表現を展開した。
目黒区美術館は、初期版画集《PSALM 1》(1979)、村上を代表する黒の絵画《無題》(1980~82)、白い紙のドライポイントによる《十字架への道》(2001)など主要な作品を収蔵。本展ではそのコレクションを中心に新作を加えて構成し、村上作品の世界を紹介する。
呼吸をすることと描くことを同じようにとらえ、生きるために描き続ける村上。絵具のマチエールの上には、気の遠くなるほどの行為の跡が刻み込まれている。静かで深い村上作品の魅力を、この機会に体感したい。