「新興写真」とは、1930年前後の日本で盛んになった、カメラやレンズによる機械性を生かし、写真でしかできないような表現を目指した動向のこと。ドイツの新即物主義(ノイエザッハリヒカイト)やシュルレアリスムなどの影響を受け、それまでのピクトリアリズム(絵画主義写真)とは異なる動きとして注目を集めた。
この新興写真を牽引したのが、32年〜33年に発行された写真同人誌『光画』だ。主宰者である野島康三、同人であった木村伊兵衛、中山岩太を中心に関西のアマチュア写真家をも巻き込んだ活動を展開し、日本近代写真史を代表する論文として知られる伊奈信男の『写真に帰れ』を掲載するなど、重要な役割を果たした。
本展では、この『光画』と、木村専一を中心に結成された「新興写真研究会」の会報誌『新興写真研究』に掲載された写真を中心とし、新興写真に影響を与えた海外写真家の作品とその後の写真表現もあわせた約150点を展示。
日本では、戦後の主流となったリアリズム写真表現と相反する部分も多かったために、注目される機会が限られていた新興写真。しかしそこには様々な実験や工夫があり、その後の広告表現やリアリズム写真にも影響を与え続けている。この機会に、新興写真の幅広く豊かな写真表現を堪能したい。