国立西洋美術館開館の核となった、川崎造船所初代社長・松方幸次郎のコレクション「松方コレクション」。その一部である作品、クロード・モネの《睡蓮ー柳の反映》が、2016年9月にパリのルーヴル美術館の一角(※)で発見され、19年6月に同館で展示されることが発表された。
《睡蓮ー柳の反映》は、モネが1916年に制作した油彩画で、縦199.3×横424.4センチという大作。パリのオランジュリー美術館にある全長90メートルに及ぶ「睡蓮」の大装飾画の一部、《木々の繁栄》に関連づく習作のうちの一つで、柳の木が逆さまに映り込んでいる睡蓮の池の水面を荒々しい筆致で描いたもの。本作に近い構図のものは北九州市立美術館(福岡)と地中美術館(香川)にも収蔵されているが、モネが生前に売却したこのサイズの作品は、これが唯一だという。
この作品は松方コレクションの一つ。松方コレクション自体は1927年の川崎造船所の経営破綻の後散逸したが、パリに残されていた約400点は第二次世界大戦中の1944年に、フランス政府によって接収。戦後、58年の「美術作品の所有権を日本国へ移転することを許可する命令」の公布を経て、59年にフランスの国立美術館のために確保された約20を除く375点が、日本へと移送された。
しかしながら、《睡蓮ー柳の反映》は、その「確保リスト」にも「移送リスト」にも載っていなかった。これは、同作が戦時下の疎開中に破損し、その破損状態が酷かったため、戦後の返還交渉の際に忘れ去られたものと推測されている。西洋美術館では資料として存在は把握していたものの、所在がわからなかったという。
これが再発見されたのは16年9月のこと。フランスの美術館関係者がルーヴル美術館内で発見、調査を行い、西洋美術館に情報を照会。松方コレクションであることが判明し、17年11月に、松方家から国立西洋美術館に寄贈。同年12月に美術館に到着した。
作品の破損については、湿気もしくは水の被害によってキャンバスの上半分が欠失。木枠もなくなっており、絵具の残存部は全体の半分のみとなっている。しかしながら、残存部分のみでも相当な面積があり、画面右下にはモネ自身のサインと年記も現存。美術館側は、適切な処置を行えば、モネの魅力を伝えうる可能性があると判断した。現在、修復と展示のための予備調査が行われており、今年4月から本格的に修復を開始。欠損部分の修復は今後協議されるが、面積が大きいため、完全に元の状態に戻ることはないという。
なお、本作は開館60周年にあたる19年6月に、「松方コレクション展」で展示予定。国立西洋美術館の新たな目玉となることが期待される。
※同作はルーヴル美術館の所蔵品ではなく、接収作品を管理していたフランス美術館局がかつて同館の一角を間借りしていたため、ルーヴル美術館で発見された経緯がある。