髙田安規子・政子インタビュー。いまの時代だからこそ必要な「スケールの思考」【2/3ページ】

──そのメッセージは受け取れました。いま求められていることです。モニュメンタルな「大きくて強いもの」への興味よりも、身近でなにげないものから与えられる気づきこそ、大切になっていく予感があります。髙田さんたちの時間と手仕事の堆積から繊細に紡がれる作品にわたしたちが惹きつけられるのは、そこに植物の造形にも似た自然の摂理に近づいていく入り口がありそうだからではないでしょうか。では具体的な作品についてもお聞かせください。会場でひときわ目立つのは、本を積み重ねて地層に見立てた《Strata》です。踊り場と吹き抜け、展示室の構造が地層として読み替えられるなんて素敵ですね。

安規子 この作品を中心に今回の展示を組み立てていきました。作品が空間を突き抜けて、踊り場の空間と小展示室を一体化させるようなチャレンジをしています。作品の構造としては最下部が先カンブリア時代を表し、上にいくほど時代が現在へと向かい、踊り場の下までが完新世、踊り場が人新世となっています。そして、鑑賞者が踊り場に立つことで作品が完成するとも言えます。地層は時代ごとの生態系や環境が刻まれた歴史書のようなものだと言われますが、それを実物の本や化石、鉱石を使って可視化しました。

Strata 2025 サイズ可変(本棚:H240×140×140cm) 化石、古本、鉱石、岩石、生物の骨

──六角形という形態になっているのはなぜですか?

政子 蜂の巣や雪の結晶にも見られるように、六角形は自然界において安定した形で、構造的にも強く、この形状を取り入れたかったのです。

──使われている化石も繊細で綺麗です。それらが開いた本のページ、ドローイングと関わりあって息づいています。

政子 化石を選ぶときは、生き物の形態としてわかりやすいものを探しました。化石は制作で触れていると、古い本とともにパラパラと崩れ欠片になってしまう儚い存在です。死の痕跡ですが、同時に生命の尊さを強く感じます。

安規子 生と死の循環と再生である進化の歴史として地層を捉えた時、人類も他の生命と等しく、脈々と受け継がれてきた38億年の生命の歴史の一部です。人類が突然現れたのではなく、永い生命の歴史の上で成り立っていることを、たくさんの化石に触れることで考えさせられました。

──私はいま大学でアーカイヴの仕事をしていますが、地層はアーカイブと似ていますね。だれかがそれを見る時、新たな意味が生まれてくる。そう教えてくれる作品でした。大展示室の作品についても伺います。パッチワーク作品《Electromagnetic wave》は壁面を上昇するエネルギーが蔓植物のようで、量子運動モデルにも似ています。小さなベッドたちが連なり、カバーのキルトも印象的な《Spectrum》もまた、重層的連続的なエネルギーパターンを感じさせます。

Spectrum、(Electromagnetic wave部分) 2025 サイズ可変 フィードサック(ヴィンテージ)、ベッド、ベッドカバー

政子 《Electromagnetic wave》の柄は電磁波のダイアグラムと、結婚指輪が連なる「ダブルウェディングリング」というキルトのパターンを複合させたものです。

──それがとても新鮮でした。電磁波エネルギーパターンが知らず知らず、女性の手仕事=時間の結晶である手縫いのキルトで表現されている。

安規子 パッチワークには幾何学パターンが使われ、その作業は緻密であり、計画的に進めるために設計図も必要ですが、それを数学的だと感じる人はあまりいないと思います。身近に使うものであり、素材と繊細な作業がもたらす柔らかいイメージがありますから。科学的なモチーフがごく自然に日常的なものへとつながるダブルイメージをもつ作品です。

政子 ダブルウエディングリングは人と人のつながり、人との関係が広がることを意味していて、人だけではなく生物の連関という意味でこの柄を選びました。一方《Spectrum》に使われている柄は「トリップ・アラウンド・ザ・ワールド」というパターンで、生命の起源に関わる太陽光が放射状に広がるイメージとして選びました。キルトからのアプローチと、科学的なアプローチがつながり、色々な意味が重層的に入り込むようにしています。

──摂理につながる波動のパターンが、生活のことを考えながらつくられたキルトと響き合うことに驚かされました。

政子 生地はヴィンテージの「フィードサック」という1930年代の米国で、穀物を入れる袋として使われてきたものです。穀物袋はもともと白い袋でしたが、花柄など美しい柄にしたところよく売れ、その袋をリサイクルして洋服や日用雑貨などに作り変えたそうです。そういう歴史も作品に取り入れたいと考えました。フィードサックは植物柄がとても多く、エネルギーの循環や再生を司る力強い存在としての植物と光の関係も感じていただけると嬉しいです。 

編集部