長谷川祐子が初めて挑んだ個人コレクションのキュレーション。UESHIMA MUSEUM「創造的な出会いのためのテーマ別展示」の狙いを聞く【2/3ページ】

 3階は、地下1階の「激しい抽象」と対比させるように「常温の抽象」を集めた。

 「アグネス・マーティンとカプワニ・キワンガの作品を中央に並べ、その周りに何が置けるかを考えました。『常温の抽象』という言葉は私の造語ですが、要するに、鑑賞者がいつまでも展示空間にいられるような抽象画をイメージしています。お水は、熱すぎても冷たすぎても体に負担がかかりますが、常温は体に優しい。ゆっくりと安らぎ、内省できるような空間を抽象表現によって生み出せたのではないかと思っています。抽象と内省はまさにいまのキーワードだと思います」。

展示風景より、左からカプワニ・キワンガ《Estuary》(2023)、アグネス・マーティン《Untitled》(1995)、アンセルム・ライル《Untitled》(2005)

 4階には、アフリカ作家を含む多様な国籍のアーティストたちによる、個々の生や歴史のナラティブが色彩豊かに展開する。テーマは「ナラティブと色彩のアウラ」。

 「フィギュラティブで、ストーリーの強いものだけを並べてもうまくいかないだろうと思ったので、あいだにアブストラクトを入れながら全体を調整しました。例えば、ベルナール・フリズの、典型的なフリズらしいのとは少し異なる《Untitled》(1984)があって、油野愛子さんの黒が画面中心に効果的に使われた《CAMELLIA(Narrative)》(2022)があり、そこにナイジェリアやガーナといったアフリカの国々の作家の作品が並置される。それぞれに色彩を駆使した異なる表現を並べることによって、絵の要素が意味やテーマから離れ、空間に還元されて作用し合うような展示が生まれると考えました。公的な美術館のコレクション展ではできないようなことにチャレンジすることができました」。

展示風景より、左からロベルト・パレ《Madonna of Chancellor Rolin》(2022)、油野愛子《CAMELLIA(Narrative)》(2022)、モーゼス・サイボーア《Fountain od Brotherfood(1)》(2021)、ベルナール・フリズ《Kova》(2022)、ワハブ・サヒード《Untitled》(2022)

編集部