兵庫県立美術館「石岡瑛子 I(アイ)デザイン」インタビュー。現代人の心に響く石岡瑛子の仕事が美術館と共鳴する【5/8ページ】

協働への情熱―他者を「鏡」に自分を磨く

 石岡は、映画『ドラキュラ』のフランシス・フォード・コッポラ監督をはじめ、国内外の名だたるクリエイターや経営者と協働を重ねた。「協働作業を『お手合わせ』と呼んで稀有なほど重視し、協働を通じて『私』を磨き、鍛錬しようとした。他者を『鏡』に自己の主張をぶつけ、両者がスパークする中に浮かぶ『私』を見つけようとしたとも言える」(河尻)

 一例が、「モダンジャズの帝王」と呼ばれるマイルス・デイヴィスのアルバム「TUTU」のアートワーク。撮影時に不機嫌になるマイルスを説得して写真家アーヴィング・ペンと熱いグルーヴを生じさせ、圧巻のビジュアルを実現した経緯は河尻の評伝に詳しい。この仕事で石岡はグラミー賞のべスト・アルバム・パッケージ賞を受賞した。

5幕の展示風景より、奥がマイルス・デイヴィスの『TUTU』

 「個の情熱と意思」「ジャンルの越境」「他者との協働」──以上3つの「特異点」を掛け合わせた総体が、石岡が築き上げた「Iデザイン」だとまとめた河尻は、次のようにつけ加えた。

「クライアントワークのなかで100パーセントの自己実現をする『Iデザイン』は、瑛子独自の才能や感性、人間性の成せるものと当初、私はとらえていた。しかし、評伝執筆後に彼女自身、これを己を鍛錬し、仕事の質を高めるある種の『方法論』として編み出したのではないかと思いいたった。そうとらえ直すと、人の数だけ『Iデザイン』が存在することとなり、クリエイティヴの領域を超えた普遍性さえ持つ。瑛子の仕事と生き様は、様々な分野でいい仕事をしたいと考えている人を鼓舞する。“特異点”でありながら、じつは王道の仕事術ともいえ、自分らしく仕事をしたい現代人に響くのではないか。なかでもグローバルに活動したい日本人にとって瑛子は“ロールモデル”と言える存在かもしれない。究極的に瑛子は、対立点を乗り越え「私」と「他者」の調和をダイナミックにクリエイトした。その発想こそいまの世界に必要だ。経営者や政治家にも見てほしい」。

編集部

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