兵庫県立美術館「石岡瑛子 I(アイ)デザイン」インタビュー。現代人の心に響く石岡瑛子の仕事が美術館と共鳴する【3/8ページ】

クライアントワークの中で「私」を主張する

 ひとつは創作姿勢。「仕事の大半がクライアントワークで様々な制約があったにも関わらず、つねに『私』の主張から出発しなければならないという独自の哲学を持ち、その姿勢を生涯貫いた。激しい意見交換も厭わない依頼主でなければ仕事は成立しなかったが、徹底的に我を通すように見えて、これほど他者の課題解決に真摯だったデザイナーも珍しいのでは? 圧倒的な熱量で仕事にのめり込み、クライアントと自身の完璧な交差点を執拗に探りながら着地を目指すのが瑛子の制作スタイルだった」(河尻)。

 河尻が課題解決の一例に挙げたのが、70年代~80年代初頭に手がけたパルコの一連のキャンペーン。「裸を見るな。裸になれ。」「あゝ原点。」などメッセージ性が強い広告はセンセーションを巻き起こし、パルコのブランドイメージを高めた。「当初、PARCOは小さなベンチャー企業で、広告費も潤沢でなく、ポスター掲示やCM放映圏も限定的だった。そのなかで、どうすれば最大の効果を上げられるかを深く考え、圧倒的な存在感を示すビジュアルをつくり上げた。ポスターなどの刺激的なデザインや時代に向けたメッセージはいまだ色褪せていないが、じつはそれらが初期のPARCOの躍進に大きく貢献していることにも注目いただきたい」。

2幕展示風景より、PARCOのポスター群

 自身の主張をもとに社会を揺さぶる表現を創出した石岡。だが、「自らファインアートや自主企画を手がけることにほとんど関心がなかったようだ」と河尻は語る。「作家性が高いデザイナーには、横尾忠則さんや田名網敬一さんのようにファインアート志向が強くなる方も多い。瑛子がなぜ自己表現の道へ進まなかったかが疑問だったが、本人からは明確な答えが得られなかった。しかし、長年友人だった小池一子さん(クリエイティブ・ディレクター)に『人の役に立ちたかったのでは』と指摘され腑に落ちた。全力で『私』を主張しながら他者のためにも力を尽くす。創作における利己と利他の『完璧な合致点』の模索。それが瑛子の生涯の逆説であり、作品の今日性に深い場所でつながっている。私は彼女のそんなところに関心を抱いた。こんな人はそう滅多にいない。“特異点”というのもそういう意味だ」。

編集部

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