田中泯が語る、坂本龍一と「言葉」【3/3ページ】

「坂本さんが言葉のレベルを上げてくれた」

──坂本さんと初めて出会ったのはどのような機会でしたか? そして、どのような交流をもってこられたのでしょう?

 2007年のことです。インドネシアを旅して島々で踊ることを映画にしたのですが、そのDVDを坂本さんに送り、感想を求めたのです。とても素敵な感想をくださり、そのあとニューヨークに行ったときにすぐお会いして、以降は行くたびにお会いしていましたね。

 まさに「教授」とお話しているような感じで、世間話もしない。人間の話、戦争の話、大人の嘘の話などをしていましたね。だから一緒に仕事をしようとなったのはずいぶん後なのです。

『Ryuichi Sakamoto: Diaries』より © “Ryuichi Sakamoto: Diaries” Film Partners

──泯さんと坂本さんに共通する人物として、哲学者フェリックス・ガタリを想起します。泯さんは80年代初頭に出会われたと思います。また坂本さんは、1985年に東京で出会い、意気投合されたそうです。もちろん、こうした共通の知己を挙げれば枚挙に暇無いとは思うのですが、ガタリはすこし特殊な共通項に感じられました。何か想起されることがあれば、教えていただきたく存じます。

 そうでしたか。坂本さんがガタリと交流を持っていたことは知りませんでしたが、納得はしますね。ガタリはとてもマトモな人でした。死ぬときもプツッと終わる。いくら言葉を使っても追いつかないドラマティックなものでしたね。

──泯さんと坂本さんの表現分野は異なりますが、海外での表現活動を重ね、その普遍的な体験を経て、日本のアートシーンとも向き合ってきた点は共通していると思います。いまこの時代、この列島に関して思うことを教えていただきたく存じます。

 当たり前のことですが、すべてのことには始まりがあったということです。それは植物の世界であり、坂本さんが森にこだわったのもそうだからでしょう。始まりに戻るのではなく、始まりを引き寄せるような動機をなぜ僕らは持てないのか。神や仏に頼るのではなく、それ以前の世界に戻ろうじゃないかと。踊りがまさにそうです。言葉以前のコミュニケーションとはなんだったのか。人と人との親しみとはいったいなんだったのか。いまは言葉でなんでもできますが、腐った言葉もまた世界をつくってしまっている。それはなぜなのか。

──この映画の言葉は、それとは違う種類のものです。

 そうですね。坂本さんが言葉のレベルを上げてくれたと言えるでしょうね。

田中泯
スタイリスト=九(Yolken)、ヘアメイク=横山雷志郎(Yolken)
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編集部