ノマドから始まる「galerie tenko presents」。中島点子がつくる、もうひとつのアート・エコロジー【3/5ページ】

「見えにくい存在」に光を当てる

──とくに印象に残っている展示について教えてください。

 「ノマディック」という形態だからこそ、東京以外でも柔軟に展示できるのが魅力だと思っています。例えば、2023年末から24年初めにかけてベルリンで開催した、日本人アーティスト12人による展覧会。古いアパートの一室に、作品をスーツケースで持ち込んで展示する“スーツケース・エキシビション”という形式で実現しました。当初は「誰も来ないかも」と心配していましたが、Instagramを見て訪れてくれた人が思いのほか多く、本当に驚きました。

 また最近では、ニューヨークのギャラリー「Gandt」でとても個人的に意味のある展示を行いました。紹介したのは、私の母の旧友でもある72歳のオランダ人女性アーティスト、サビーナ・マリア・ファン・デル・リンデン。彼女はパンクアイコンとしても知られていますが、1990年代のベルリンで誰にも見せずに描いていた素晴らしい作品群があり、「このまま埋もれてはいけない」と感じて展示を実現しました。ギャラリーに所属したこともなく、表に出ることがなかった“見えにくい存在”に光を当てることは、私にとって非常に重要なミッションです。この展示は来週ケルンでも再開催される予定で、こうした活動にもっともやりがいを感じています。

サビーナ・マリア・ファン・デル・リンデン「Sabina Maria van der Linden: DAS LETZTE / THE LATEST」展(2024年4月27日〜6月2日、Gandt、ニューヨーク)の様子

──まだ広く知られていないアーティストに光を当てたいという想いは、どこから来ているのでしょうか?

 優れた作品を生み出しながらも、自己表現や社交が苦手なアーティストは少なくありません。現代のアート業界では、文脈化能力やネットワーキング、自己プロモーションが求められる傾向がありますが、私はそういったスキルとは無縁でも、純粋な“天才”と呼びたくなるアーティストに強く惹かれます。

 彼らは非常に頑固で、自分の美意識に納得できないギャラリーとは仕事をせず、展示にも姿を見せないことさえあります。しかし、そうした強い倫理観を持つアーティストに対して、私はその姿勢を理解し、尊重し、自由を与えられる存在でありたいと思っています。

 いまのアートの現場では、効率や収益が重視されるあまり、こうした繊細で個性的な声に耳を傾ける余裕が失われつつあります。だからこそ、声が届きにくいアーティストたちの代弁者のような存在でありたい。とくに女性やLGBTQ+など、社会的にマイノリティとされる作家たちと多く関わっているのも、その想いの延長線上にあります。

ビリー・コールハースト「Billy Coulthurst: Jimmy got jack」展(2024年10月4日〜25日)の様子

編集部

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