第3部「グローバルな現代の職人という視点からの講演」
昼食後の第3部では、ミケランジェロ財団エグゼクティブ・ディレクター、アルベルト・カヴァッリが登壇。「美の道:日本の工芸と美への道」と題し、日本の工芸に触発された職人養成プロジェクト「Homo Faber」の意義について熱意をもって語った。観客を引き込むパフォーマティブな講演は大きな印象を残した。

第4部「工芸の民主化―都市、消費社会、漫画・アニメ・サブカルチャーを通した今日の表現物としての工芸」
休憩後の第4部では、「工芸の民主化:都市、消費社会、漫画・アニメ・サブカルチャーと今日の表現物としての工芸」をテーマに議論が行われた。まず「GO FOR KOGEI 2025」アーティスティック・ディレクターを務める秋元雄史が、1950年代以降の走泥社の活動に始まり、2010年代以降の個人作家による現代工芸の現状に至る背景を説明した。その後、第2部同様に、岩村遠(陶)、シゲ・フジシロ(ガラス)、川井雄仁(陶)の3名によるプレゼンテーションが行われ、秋元がモデレーターとしてパネルディスカッションを進行した。
岩村遠は、ポップカルチャーと埴輪に触発されたネオ縄文シリーズを紹介した。カラフルで大きな頭を持つ人形のような作品を通じて空間を構成するインスタレーションを制作しており、漫画やポップカルチャーが日常の一部であることから生まれる表現がもっとも自然であると語った。制作過程では、粘土のひもづくりを用いたゆっくりとした積み上げのプロセスが思考や方向性、素材と身体の相互作用を促すと述べた。
シゲ・フジシロはファッションへの関心を起点に、安全ピンに多色のガラスビーズを取り付ける作品や、ブランドロゴ入りショッピングバッグをモチーフとしたシリーズを紹介した。危険性を隠し消費社会化されるものへの批評を述べ、制作の過程は編み物のように手作業で進めながらも、頭が同時に高速で回転することを説明した。
川井雄仁は、一見パステルカラーの菓子の山のように見える作品に、ペニスの突起や腐敗を連想させる液体などの要素を織り込み、社会からの疎外感や抑圧の存在を視覚的に示した。英国での経験を通じ、日本性と技術の完璧さの関係、英米におけるコンセプト重視の文化、そして日本の日常やヒエラルキーの少ない社会を意識する点について語った。
第2部のパネルの女性作家と同様、グローバルな経験をもつ3名の作家は「日本性」「日本人」であることを外から考えさせられることは多々あるが、手塚治虫の漫画がディズニーの影響を受けているように、ポップカルチャーはグローバルな文化的交差の創造現象であることを強調し、現代日本性の特定が容易ではないことを指摘した。
また制作過程における時間の重要性も言及された。岩村は粘土積み上げのゆっくりとしたプロセス、フジシロは手作業の同時進行による思考の高速化を例に挙げ、時間の質が表現の形成に不可欠であることを示した。また、「アート」とは区分される「工芸」という領域は、商業ギャラリーや美術館での展示や分類方法によって強く規定されるが、近年では再考の動きが見られることも報告された。
観客から、第2部でジェンダー問題に焦点が当たったいっぽう、第4部ではジェンダーやクィアに関する議論がほとんどなかったことへの質問があった。これに対しては、抑圧されたマイノリティとしての視点は作品に込められているものの、本当にそれがジェンダーの問題からきているかはわからないため注意深く発言を選んでいるといった意見や、作品を語る上でジェンダーの問題を優先的に語る必要性を強く感じていないといった回答がみられた。このやりとりを通じて、ジェンダー議論を日本の現代工芸作家と続けていきたかった質問者とのあいだには、双方の文化的違いが見られた。




















