第2部:女性アーティストによる実践と議論シンポジウムの意義と成果
午後の第2部では、佐々木類(ガラス)、スーザン・ロス(漆)、牟田陽日(陶)、細野仁美(陶)という金沢に縁のある4人の女性アーティストがプレゼンテーションを行った。その後、人種やジェンダーに精通する工芸史研究者ターニャ・ハロッドがモデレーターを務め、パネルディスカッションが展開された。各作家は自らの素材や工程に根差した創造的実践を語り、工芸とコンセプチュアルアートの境界を越える姿勢を共有した。
佐々木類は、空間や環境に働きかける主体的な五感の使い方と、技術の運用とコンセプトの統合を重視する制作態度を語った。彼女の制作は「工芸かコンセプチュアルアートか」といった従来の領域規定にとらわれず、技術や素材を柔軟に扱うことによって、既存の枠組みを超える表現を追求している。
41年間日本に在住したスーザン・ロスは、人間国宝2人の師匠から漆作家としての技術と姿勢を学ぶいっぽうで、輪島塗と人間国宝の閉鎖的な世界において、白人かつ女性であることによる排除を経験した。その体験は、伝統的な日本人作家には思いつかない漆の使い方や表現方法を探求する動機となった。ロスはまた、漆の伝統保存をうたういっぽうで材料や道具の枯渇や、国産漆の規定を満たせなくなる現状に対しても厳しい批評を向け、日本の社会が向ける伝統に対する投げやりな態度に警鐘を鳴らした。
ロンドンのゴールドスミスカレッジでコンセプチュアル・アートを学び、九谷焼へ移行した牟田陽日は、素材や工程を問わずコンセプトを応用できることを強調した。とくに、手の感覚でつくられた凸凹の表面と絵の表現が大きな物体により一体化され、知覚に訴える迫力を生む計画的な恣意についての説明は、領域意識を自然に崩すものだった。また、日本社会に根強く存在するジェンダー問題や民俗神話の図像(「山姥」「山女」)への関心、神と女性、人間と非人間の境界の曖昧性に惹かれる自身の視点も示された。
18年間ロンドンを拠点に活動する細野仁美は、金沢のローカル文化やジェンダーの意識を反映した作品を紹介した。片町の夜の街の女性や北陸の食文化を題材に、九谷焼の赤絵や漫画的表現、18世紀ヨーロッパ風の植物装飾などが融合したグロテスクな美を追求している。彼女の作品は、技術偏重の日本的工芸や装飾過剰と見なされがちであるが、金箔や精神性、文化の記憶を介した意味づけがあることが強調された。
佐々木、ロス、牟田、細野に共通するのは、伝統や文化の固定化に縛られず、コンセプト・装飾・技術を統合した複雑な制作態度である。時間の概念も重要視され、長い時間をかける制作や、女性のライフスタイルに適応した時間感覚が反映されている。また、伝統技術への尊敬を持ちつつも、自らの主体性や創造性を優先する「よそ者」としての関係性が創造の原動力となっている。素材に対する感覚や評価も、1000年以上生き残る磁器・ガラス・漆の性質と現代の社会意識が混ざり合うことで、作品の表現や性格を決定づける要素となっている。




















