2022年、「美術手帖」読者の心をもっとも掴んだのは東京国立近代美術館の「ゲルハルト・リヒター展」(6月7日~10月2日)だった。昨年に引き続き首位は現代美術の展覧会となった。
現代美術の世界において、最高峰とも称されるアーティスト、ゲルハルト・リヒター。1932年生まれのリヒターにとって90歳の節目であり、日本の美術館では16年ぶり、東京の美術館では初というメモリアルなものとなった。リヒター本人の来日は叶わなかったものの、会場はリヒター自身が構成。各代表シリーズから選ばれた122点が、混じり合うように並んだ。
なかでも多くの人々の注目を集めたのは、アウシュビッツ・ビルケナウ収容所で密かに撮られた4枚の写真イメージから描かれた《ビルケナウ》(2014)。日本初公開となったこの大作に圧倒された人は少なくないだろう。なお本展は豊田市美術館で1月29日まで開催中。東京展を見逃した方はこちらを訪れてみてはいかがだろうか(キュレーターによるテキストもあわせてチェックしてほしい)。
ビルケナウという大作の私達鑑賞者を巻き込んだ展示方法に考えさせられ(強制収容所の隠し撮りを見た後にビルケナウを観ると涙が出ました。)、またオイルオンフォト、フォトペインティングなどどれも素晴らしく、様々な技法に挑戦したリヒターのエナジー満載で圧倒的であったので。
リヒター回顧展としては物足りない評価も見かけたが、ビルケナウの展示だけでも現代社会に一石を投じ、2022年に相応しい展示であった。制作背景に理解を促す関連イベントや出版物があったのも有り難く、非常に拡張性の高い展覧会だった。
ビルケナウが圧巻でした。また、そこに到達するまでのリヒターの創作の変遷がよくわかりました。音声ガイドの内容も非常に良かったです。
まず展示場所の構成が面白かった。中心のガラス板の展示に人々の姿が写って見えるところや、鏡の作品にカラフルなタイルのような作品が写るところなど、周りの環境と作品の関係性が面白いと感じた。 主役となる大きな作品と、小さな作品のバランスも良く、見やすくてわかりやすい展示だと思う。
言葉なくして、作者の中の広大な心情が伝わってくる作品、大小様々なそれらに心を奪われました。 順路を決めないレイアウトと、それが本当に気にならない点も素晴らしかったです。
リヒターに続く次点となったは、同じく現代美術。国立新美術館で行われた「李禹煥展」(8月10日〜11月7日)だ。こちらもリヒター展に状況が似ており、国内では17年ぶり、東京の美術館では初の大規模回顧展となった。
「もの派」を代表する作家・李禹煥はリヒターの4歳年下(1936年生まれ)。展示構成は李が自ら考案し、1960年代の最初期の作品から最新作まで、60年以上にわたる創作の軌跡が一堂に紹介された。なかでも野外に設置された新作彫刻《関係項―アーチ》(2022)は大きなインパクトを与えるものとなった。
鉄板などの人工的なものと石や木などの自然のものの組み合わせが、なぜかわからないけれどとても心地よく感じられて、その感覚がとても不思議だったので印象に残っているから。
今年の5月に李禹煥美術館を訪れて感銘を受け、都内で再び観られることとなった喜び、中谷美紀氏に加えて李禹煥氏本人による音声ガイド(自身のスマートフォン/イヤホンで聴けたのがポイント高かったです、ノイズキャンセリングを効かせられたので)、李禹煥美術館では観られなかった/味わえなかった作品にも出会えて、とても良かったです。
今年はさまざまな展覧会に足を運びましたが、いまだにこれほどまでに鮮明に、作品ごとに感じた感情や想いまでもが蘇ってくる展覧会は今年は李禹煥の展覧会のみだったため。
初心者でもパターンを見出しやすい親切な作品と、静かで見比べやすい構成がよく噛み合っていたと思います。鑑賞距離によって見えるものが変わる展示や石を踏み鳴らす体験などの工夫も楽しく、印象的でした。
無機物から有機物への転換が、あそこまで軽やかに行われる作品を初めて知りました。また新たな視点で物事を見れるきっかけとなる素晴らしい芸術家を知ることができたため選びました。
3位は森美術館の「地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング」がランクイン。同展は、パンデミック以降の新しい時代の課題である、心身ともに健康である「ウェルビーイング」=「よく生きること」とは何かを、ヴォルフガング・ライプをはじめとする国内外16作家の約140点を通して、多様な視点で提示するもの。「with コロナ」へと移行した今年ならではの展示として、多くの人々の心に残ったようだ。
どの作品も長い時間をかけて作られた、熱量の文作品だと感じました。
こんなに何度も行きたくなる展示は初めてだった。実際4回行った。 コロナ禍を経験した時間があるからこそ刺さる展示だった。
写真と絵画の関係を、2人の現代写真家とともに問いかけるアーティゾン美術館の展覧会「写真と絵画−セザンヌより 柴田敏雄と鈴木理策」(4月29日~7月10日)が4位。同展は、アーティゾン美術館の石橋財団コレクションと現代美術家が共演する展覧会「ジャム・セッション」の第3弾として開催されたものだ。ポール・セザンヌの作品に関心を寄せ続けている柴田敏雄と鈴木理策。それぞれが惹かれた絵画と見せた「セッション」が、鑑賞者に新たな気づきを与えたようだ。
写真と絵画を横断する新たなものの見方を提示してくれたから
人は何を抽象と捉えるのか、重要なことを思い出させてくれた展示でした。ちょうど開催していたリヒター展の後に訪れることができ、抽象について考える刺激的な1日となりました。
私は写真作品に疎く、これまでは写真作品を見てもあまり親しめていませんでした。ですが、絵画や彫刻によって引かれた補助線をヒントに、初めて写真を楽しむことができたのがこの展覧会でした。第一回、第二回のジャム・セッションも好きでしたが、今回が1番双方を魅力的に見せていたと思います。
企画そのもの、そして作品の見せ方、並べ方が秀逸。セザンヌの作品にこれほど新鮮な印象を持つ日が来るとは思っていなかった。
このほか、国立新美術館の「メトロポリタン美術館展」(2月9日〜5月30日)、森美術館「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」(2月18日〜5月29日)、練馬区立美術館の「日本の中のマネ―出会い、120年のイメージ」(9月4日〜11月3日)、東京国立近代美術館の「大竹伸朗展」(11月1日〜2023年2月5日)なども票を集める結果となった。
よくもこんなに有名どころばかり持ってきた、と溜め息が出るほど豪華な展覧会だった。コロナ禍で海外から作品が来る展覧会が相当延期や中止になった&国立西洋美術館が閉館中だったことで、西洋絵画にやや飢えてたこともあるが、久しぶりに真正面からアートの全力で殴られたような気持ちになった。(メトロポリタン美術館展)
Chim↑Pomの活動を集めたものすごい展覧会で、その独自性や方向性がとてつもない力とエネルギーに満ちており人生感を変えるような衝撃を受けたから(Chim↑Pom展:ハッピースプリング)
印象派ともレアリスムとも位置付けられず、展覧会でも取り上げられることの少ないマネに注目した展覧会であったことが印象的でした。マネが対象を通して社会の現実を描こうとしていたことが分かり、マネについてさらに知りたいと思える展覧会でした。(日本の中のマネ―出会い、120年のイメージ)
彼の作り出す作品の熱量にとにかく圧倒された。近代美術館はゲルハルト•リヒター展も素晴らしかったがそのあとの大竹伸朗展も見せ方、コンセプト、企画すべて良かった。(大竹伸朗展)