未来のアートと倫理のために
制作活動に従事するアーティストも社会の一員。自身の表現を世に問う際に果たす責任もあれば、不当な搾取に声を上げる権利もある。芸術表現が倫理を越境するものであったとき、美術業界のジェンダー構造を変革したいとき、ハラスメントの問題を解決に導きたいとき、何を頼りにアクションを進めていけばよいのか? アートプロジェクト、福祉、法律などの専門家たちによる現場の声を集め、他者とともにある表現の多様な在り方を提案する。遠藤水城、百瀬文による実験的なコラボレーション小説も収録。(中島)
『未来のアートと倫理のために』
山田創平=編著
左右社|1800円+税
クリティカル・ワード メディア論
理論と歴史から〈いま〉が学べる
一口にメディア論といっても、その包摂する学問領域はかなり広範にわたる。フランクフルト学派やマクルーハンによる古典的言説はもちろん、最新の科学技術、ポスト・インターネット時代のアート作品まで、広くアンテナを張っておくのが望ましい。本書は「理論編」「系譜編」「歴史編」の3パートから成り、身体、ポストヒューマン、ニューメディア、ジェンダーなどのキーワードに沿ってメディア論を学ぶための視点を解説する。最新の知見がふんだんに盛り込まれたユースフルな1冊だ。(中島)
『クリティカル・ワード メディア論 理論と歴史から〈いま〉が学べる』
門林岳史、増田展大=編著
フィルムアート社|2200円+税
言葉と衣服
ファッションについて語る言葉を私たちはいまだ十分に持っていない。例えば、人類は太古から何かで身を包んでいたはずだ。既存の研究や批評はファッションの定義を狭めすぎているがゆえに、過去から現在に至る衣類を身にまとう行為を総体として扱えないと著者は言う。こうした認識のもと、本書はファッションという現象を言葉にするための原理的な問いに答えていく。タイトルにもある「衣服」とはそもそも何を指すのか。「ファッションデザイン」とはいかなる行為なのか。美術などの近接領域の議論や、最新のデザイナーの活動をもとに、ファッションを語るための確固たる足場をつくる作業を本書は行っている。(岡)
『言葉と衣服』
蘆田裕史=著
アダチプレス|1800円+税
(『美術手帖』2021年6月号「BOOK」より)