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あいトリ補助金問題で浮き彫りになった「萎縮効果」。弁護士・水野祐に課題を聞く

文化庁が、「あいちトリエンナーレ2019」への補助金を減額して交付する決定を下し、大きな注目を集めている。しかしながら、「不交付」に至った経緯などは依然として謎のままだ。残された課題とは何か?

文化庁

 文化庁が「あいちトリエンナーレ2019」に対して交付予定だった補助金約7800万円を、「不交付」としたのが2019年9月のこと。ここから半年を経て、文化庁は態度を一転させ「減額しての交付」を決めた。SNSでは交付決定について前向きにとらえる声も上がるが、「不交付」とした経緯は依然不明瞭であり、減額での交付には「手打ち感」がある。

 今回の交付で浮き彫りになったものとは何か? 「あいちトリエンナーレ2019」から生まれた「あいち宣言(プロトコル)」にも関わり、Arts and Law理事として芸術家の支援にも長く携わってきたシティライツ法律事務所の弁護士・水野祐に聞いた。

萎縮効果のみが残ってしまった

 今回、文化庁があいちトリエンナーレへの補助金について、不交付決定から一転して(減額はしつつも)交付する決定をしたことは、本来交付される予定だった補助金が無事に交付されたというだけのことで、喜ぶべきことではありません(尽力された関係者の皆様の労苦には頭が下がる思いです)。

 文化庁は、今回の(再)交付の決定の理由として、
1)愛知県が、文化庁に提出した意見書において、来場者を含め展示会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような事態への懸念が想定されたにもかかわらず,これを申告しなかったことについて遺憾の意を示した上で今後の改善を表明したこと、
2)展示会場の安全や事業の円滑な運営にかかる懸念に関連する経費等の減額を内容とする変更申請がなされたこと

等を挙げています。

 しかし、上記2点に関しては不交付決定をする直前においても十分検討・考慮可能な事項であり、かつ、あいトリ側の聴聞手続等で解消可能だったはずの事項といえ、やはり改めて不交付決定には別の理由があったのではないかと疑われるのではないかと私は考えます。

 おそらく、不服申立てを行っていた愛知県の訴訟も辞さない態度に対して、文化庁側が不交付決定の意思決定プロセスが明るみに出ることを嫌ったのではないでしょうか。文化庁の上記発表の「遺憾」という言葉遣いに違和感を憶えたのですが、愛知県と文化庁との間で何らかの「手打ち」があったのではないかと私には推認されます。

 法的にも、不交付決定という処分の取消をしないまま、再度、交付の決定をしていることに対する手続上の疑問も残ります。

 結局、問題視された文化庁が不交付決定に至った経緯や意思決定のプロセスは不透明なままであり、補助金行政に対する萎縮効果のみが残ってしまったかたちになってしまいました。

 この萎縮効果を払拭するためには、本件に関する検証をしっかり進めるほかありません。

 文化庁自身が自浄的に自ら検証を行うこと、あるいは外部の専門家による第三者委委員会等がしっかり検証を行うことを期待しますが、文化庁の今回の発表を見ると、それはなかなか難しいでしょう。

 日本社会が今後の文化庁の補助金の交付、補助金行政のあり方に注視していく必要があると思います。時には闘う姿勢を示すことも重要であることの良い先例にはなったのではないでしょうか。ここから積み上げていくほかありません。

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