文化庁は、これまで「不交付」としていた「あいちトリエンナーレ2019」に対する補助金約7800万円を、約6600万円に減額して交付する方針を固めた。
文化庁による不交付と、それに対する数多くの反対の声、そして今回の方向転換について芸術監督を務めた津田大介はどのように見ているのか? コメントを求めた。以下全文。
昨年9月に文化庁があいちトリエンナーレに対し不交付を決定した「日本博を契機とする文化資源コンテンツ創成事業(文化資源活用推進事業)」の補助金では、あいちトリエンナーレを除く25団体すべてが交付を受けています。 文化庁が不交付を決定した理由は、「展覧会の開催に当たり、来場者を含め展示会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実を認識していたにも拘わらず、それらの事実を申告することなく採択の決定通知を受領した上、補助金交付申請書を提出し、その後の審査段階においても、文化庁から問合せを受けるまでそれらの事実を申告しませんでした」としています。 しかし、そのような報告をする義務は事前に示されておらず、提出する書類にもそうした内容を記入する項目が設けられていなかったことが明らかになっています。 このたび愛知県が不服申し立ての過程で補助金を減額申請し、それが認められた背景には、このまま全額不交付の決定が変わらなかった場合に、愛知県対日本政府の訴訟が不可避だったことがあると言えます。 訴訟となれば、国側が敗訴するリスクもあったことは、専門家も指摘する通りです。裁判になれば、秘匿されていた不交付決定のプロセスの公開を求められることは必須です。最終決裁をしたのは誰なのか、議事録や記録のない決裁がまかり通るのか、その追求を避けたかった文化庁側と、不備を一部分認めて大半の補助金という「実」を取りたい愛知県側で行政的な“手打ち”が行われたということなのではないでしょうか。 再交付の方針が固まったことは肯定的に受け止めますが、一度交付が決まっていた補助金の不交付が(前例もなく)一方的に決められたことを、「条件付きで飲んだ」と解釈されかねない状況には、強い危惧を覚えます。 この“手打ち”が行われたことで、本来議論されなければならない行政の文化事業のあり方──文化芸術基本法で定められた「文化芸術の礎たる表現の自由の重要性を深く認識し、文化芸術活動を行う者の自主性を尊重する」という基本理念が、どこまで守られるのか、表現活動への様々な抑圧に対しどう抗していくのかといった問題がおざなりにされてしまうことを恐れています。 今回の補助金不交付問題は、政治的立場に拘わらず、すべての表現者にとっての脅威としてあらわれました。 その議論を進める意味でも、文化庁には改めて不交付決定から再交付に至る一連の経緯を、その理由とともにオープンにすることを求めていきます。 2020年3月23日 あいちトリエンナーレ2019芸術監督 津田大介