2018.12.31

2018年展覧会ベスト3
(『美術手帖』編集長・岩渕貞哉)

数多く開催された2018年の展覧会のなかから、6名の有識者にそれぞれもっとも印象に残った、あるいは重要だと思う展覧会を3つ選んでもらった。今回は番外編として『美術手帖』編集長・岩渕貞哉編をお届けする。

「ヒスロム —仮設するヒト—」展の会場風景 写真提供=内堀義之
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村上友晴―ひかり、降りそそぐ (目黒区美術館、2018年10月13日~12月6日)

左から、無題1980・1981・1982、無題1985・1986・1987、無題1980・1982・1983 撮影=桜井ただひさ

 目黒区在住の画家の60年以上にわたる活動を、館の所蔵作品を中心に新作も加えて見せる回顧展。地元だからこその、長年にわたる作家との密な交流と研究から導き出される空間と展示構成は、鑑賞者を深い体験へ誘うものとなっていた。

 実際、黒で下地をつくり黒い絵具をペインティングナイフでのせていく村上の絵画は、パソコンの画面や印刷の情報ではとうてい体感できるものではなく、作品ごとに異なる絵画面から反射される(降りそそぐ)わずかな光を身体的に受け止めることで、初めて見ることができる。夜の帳が下りた頃、絵画の前に一人でたたずむ経験は、私を深い慰みへと導いてくれた。

 

ヒスロム —仮設するヒト— (せんだいメディアテーク、2018年11月3日~12月28日)

展示初日に行われたギャラリーツアーの様子 写真提供=内堀義之

 結成10年を迎えるアーティスト・コレクティブの活動の全貌を見せる初の大規模展。せんだいメディアテークのワンフロアを、写真、映像や「フィールドプレイ」の残留物からなる、ひとつのインスタレーションとして見せる。

 経済活動の中心である都市へインフラや労働力を供給する造成地は、いわば都市の無意識のような存在だろう。ヒスロムは造成地という巨大な土木的な存在にちっぽけな人間の身体ひとつでコミュニケーションを図る。その「無意識」の手触りを見るものにも五感的として感得させる展示は出色だった。

 

変容する周辺 近郊、団地 (東京都品川区八潮5-6 37号棟集会所、2018年10月21日~11月4日)

展示風景 写真提供=URG

 昭和50年代に東京湾岸の埋立地に林立した公団住宅「品川八潮パークタウン」、その集会所で開かれた展覧会。羽田空港と東京入国管理局に挟まれた郊外ともいえない「近郊」団地のあり方は、経済成長に湧いていた建設当時と、長いデフレと少子高齢化の人出不足に伴う外国人労働者受け入れ問題に揺らぐ現在で、大きく様変わりをしている。

 この団地出身の石毛健太が企画したグループ展は、東京近郊を日本社会の抱える争点が凝集したローカルな現場として見せつける、優れたキュレーションとなっていた。小規模ながら(だからこそ)、都市と地方という図式で語られがちな地域の芸術祭にも一石を投じるものだろう。