2018.12.26

2018年展覧会ベスト3
(美術評論家・清水穣)

数多く開催された2018年の展覧会のなかから、6名の有識者にそれぞれもっとも印象に残った、あるいは重要だと思う展覧会を3つ選んでもらった。まずは美術評論家・清水穣編をお届けする。

ゴードン・マッタ=クラーク展の展示風景より《スプリッティング:四つの角》(1974)
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ゴードン・マッタ=クラーク展 (東京国立近代美術館、2018年6月19日〜9月17日)

《スプリッティング:四つの角》の部分

 ゴードン・マッタ=クラーク(1943〜1978)のアジア初の回顧展と聞いても、例によって70年代アートの回顧か、現地でのイベントやパフォーマンス主体の作家だから、また古びた資料ビデオや写真を見せられるのだろうと、あまり期待していなかった。その「期待」を見事に裏切った展覧会。

 ランドアートやニュートポグラフィクスに見られる、人為と自然の二元論を相互浸透状態へと脱構築する方法論を発展させて、マッタ=クラークは、公的な領域の私的な領域への介入と、自然の人為への透過を重ね(「スプリッティング」シリーズや《円錐の交差》)、それぞれの逆を映像やイベント(「壁」シリーズや《フード》)で遂行する。その作品群は、2000年代アートを顔色なからしめるとともに、まさにその起点として鮮やかに浮かび上がった。

 

秋山陽 —はじめに土ありき— (京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA、2018年11月10日〜25日)

秋山陽 Echoes 2016–18 「秋山陽 —はじめに土ありき—」(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA、2018)での展示風景
撮影=来田猛 画像提供=京都市立芸術大学

 京都市立芸大退任記念展。日本列島の海岸を回ると、この島国がつまるところ火山活動と海 —地層の褶曲と断裂、熱による変性、水による浸食— によってできていることがわかる。

 秋山陽の作品は、水で土を捏ねて粘土をつくり、粘土の層を積み重ねて褶曲させ、火で焼いて断裂と変形を加え、さらに鉄粉を加えて錆びさせるといったプロセスでつくられる。それは火(火山)と土(大地)と水(海)の造形であり、つまり陶芸という形式を採った日本のランドアートなのだ。その本質が純粋に表現され、小さいながらも印象的な個展となった。

 

松江泰治 地名事典|gazetteer (広島市現代美術館、2018年12月8日~2019年2月24日)

「松江泰治 地名事典|gazetteer」の展示風景

 松江泰治初の美術館回顧展。厳格な構図(正対、順光、地平線・水平線を入れない)で地球の表面を撮影し続けてきた松江作品は、日本の風土をヘリコプターから空撮する「JP」シリーズ(2006-)でその厳格な形式性を完成させるとともに、2014年の札幌国際芸術祭あたりからは、その形式性を超える次元を見せ始めていた。

 それは地学的時間のなかに浮かび上がる人間的時間、つまり記憶や歴史の次元であった。軌を一にするかのように、松江は過去の未発表作品を再編集して出版(『TYO-WTC』[赤々舎、2013]『Hashima』[月曜社、2017])する。まさに回顧展の機は熟していた。それに応えた本展は、松江作品を知っている人も知らない人も満足できる優れものである。