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2017.9.24

【期待のアーティストに聞く! 】
是恒さくら
ありふれて小さな物語に光を当てる

リサーチをもとに、身近な自然物を用いた作品を制作する是恒さくら。10月9日まで横浜市民ギャラリーでグループ展に参加する作家に、作品について聞いた。

文=野路千晶

Photo by Fuminari Yoshitsugu

 神話や物語を彫り、各人にとって意味のある場所へと設置する、北アメリカ大陸先住民による彫刻「トーテムポール」は木材が朽ちることで、最終的に消滅する。そして木が土に還ることで、その場所はより特別なものになるのだという。是恒さくらはこうした自然の循環の中にある芸術のあり方に興味を持ち、高校卒業後、アラスカ州立大学の先住民芸術コースに進学。そこでは木彫りや、動物の毛皮をなめした衣服縫製といった制作・研究を行い、帰国後も身近な自然物を用いた作品を手がけてきた。

 是恒は、横浜市民ギャラリーにて9月22日から10月9日まで開催される企画展「新・今日の作家展2017 キオクのかたち/キロクのかたち」に参加。様々な土地で調査したクジラの逸話に基づくリトルプレス『Ordinary Whales / ありふれたくじら』4巻と、刺繍作品4点を発表する。本著の前書きで是恒は、「文章を表す“text”も織物を表す“textile”も、語源は同じラテン語の“織る”という動作を表す“texere”だった」と記す。2つの言葉のイメージが交わるように、クジラを食す人々と捕鯨を反対する声、メディアが声高に伝える2項の関係性を細かくひもとくと、そこには様々な視点があり、点と点は線でつなげうるということが、作品を通して示唆される。「個人が持つ小さな物語を遠くに届けていきたいです」。

 いっぽう、2015年より拠点とする山形県では、周辺住民への取材を通して土地の記憶を掘り起こす作品も継続的に制作。作品の底流にはいつもリサーチがある。「世界の深さと広さを知り、自分の立ち位置と見方を見極めることで作品をつくることができる。リサーチは自分のアイデンティティーに結びつく大事な行為なんです」。

 (『美術手帖』2017年10月号「ART NAVI」より)