【ギャラリストの新世代】
gallery N 神田社宅 二宮由利香

来年10周年を迎える名古屋のgallery Nが今年、東京にもスペースをオープン。10畳ほどの小さなスペースは実際の社宅であり、今後は東京と2か所を拠点に、若手作家の作品を中心に紹介していく。代表の二宮由利香に、設立の経緯と展望を聞いた。

文=野路千晶

マンションの6階にあるギャラリー。二宮を取り囲むのは、日々の矛盾と対峙しながら制作したという二藤建人の新作 Photo by Chika Takami

愛知と東京、2か所を拠点に

社宅でありギャラリー

 2017年3月、東京・JR神田駅から徒歩2分ほどの場所に、gallery N 神田社宅はオープンした。「このギャラリーはその名の通り、夫の転勤に伴い移り住んだ社宅でもあるんです」。そう話すのは、代表を務める二宮由利香だ。二宮は2008年、名古屋市にて夫婦でgallery Nを設立。名古屋では、あいちトリエンナーレ2013に参加、様々なプロジェクト作品を発表する西岳拡貴、犬、カニ、自動車といったモチーフをデフォルメして描き、立体なども手がける川角岳大、著名人やポップアイコンを大量の絵具で描写する水戸部七絵、美術家の梅津庸一を中心とするコミュニティ「パープルーム」など、名古屋や関東が拠点の若手作家を中心に紹介してきた。

 そして、gallery Nの2軒目のスペースである神田社宅のオープニング展では、彫刻を起点に「触れる」「抱きしめる」といった体験を独自に取り入れた映像、インスタレーション作品などを制作する二藤建人の個展を開催。ギャラリーで紹介する作品の基準は、「自分たちが買いたい作品」そして「10年後も継続して活動していることが想像できる作家」だと二宮は話す。

取材時に開催していたのは、彫刻を起点に映像、インスタレーションなどを手がける二藤建人のオープニング展 Photo by Chika Takami

コレクターからのスタート

 約25年前、夫の転勤先の静岡県浜松市に存在したギャラリー、アート・デューンが、二宮が本格的に美術に触れる発端だった。荒川修作、関根伸夫、菅井汲ら1960年代から活動する作家から気鋭の若手作家まで、多彩な作品を取り扱っていたギャラリーを訪れるうち、夫妻は自ずと作品を購入するようになる。「オーナーがユニークな方で、作品の代金は“あるとき払い”でいいから、と。作品の見方を教わりながら有名無名を問わず作品を買い、リビングに飾るようになりました。作品と過ごすうちに、作品やアーティストが持つパワーの強さを日々実感するようになったんです」。

 その後、転勤によってふたたび地元名古屋へ戻ることになった夫妻はマンション契約寸前に一転、一軒家を建てることを決意。「一軒家ならば自分たちの自由に使えるし、ギャラリーも運営できる。夫とは“老後にギャラリーでも開けたらいいね”なんて話していたのですが、自分たちもこんなに早くスペースを持つことになるとは思っていなかったです」。建築家の谷尻誠が設計を行った自宅にて、ギャラリーはスタートした。

ともに成長する場を目指して

 ホワイトキューブであるgallery Nと、10畳ほどの小さなスペース、gallery N 神田社宅。今後はそれぞれの空間の特性を活かした展示を行う予定だという。

「2008年にgallery Nを設立した当初は、愛知で活動する若手作家に、自由な発表の場としての選択肢のひとつを提供したいという動機がありました。今後は、彼らの活動を東京でも紹介できたらと考えています」。

 また、夫妻がコレクターになるきっかけとなった浜松での日々と重ね合わせ、次のように話す。「ギャラリーは作家、お客様、ギャラリストの対話の場だと思う。ギャラリーでのコミュニケーションを通してお客様には作品をより身近に感じてほしいですし、三者がともに成長する場となることを願っています」。

gallery N 神田社宅 外観 Photo by Chika Takami

もっと聞きたい!

Q.ギャラリー一押しの作家は?

 馬をモチーフに作品を制作する森部英司さんです。人と馬の関わりを歴史・文化の面から考察し、実際に馬と生活し、調教の仕事を行い、様々な経験を作品に反映しています。乗馬をしながら絵を描くパフォーマンスもユニーク。

森部英司 パフォーマンス
「UMACTION 2016」の様子

Q.思い出の一品は?

 2016年12月に名古屋から東京へ引っ越して以来、部屋に飾っている黄色いバラです。生花店でフラワーデザイナーをしていた関係で、gallery Nはオープン当初、美術・建築・花の三本柱で活動していました。華々しく咲き誇る様子も、朽ちていく過程も、どちらもかっこいいです。

Photo by Chika Takami

『美術手帖』2017年6月号「ART NAVI」より)

編集部

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