AdvertisementAdvertisement
2017.9.21

躍進するヤマハ流モノづくりの秘密とは?「YAMAHA CREATIVE HACKATHON 2017」レポート

デザイン本部の設置から5年。デザインを経営資源としてとらえ、目覚ましい改革を遂げるヤマハ発動機。同社が推進するプロジェクトの中で、若手クリエイターの育成を目的に行っているのが、全国からデザイン系の学生たちが集まり1泊2日で熱いモノづくりを体験する「ヤマハ・クリエイティブ・ハッカソン(YCH)」だ。今年で4回目を迎えたイベントの様子を、ヤマハの最近の活動とともに紹介する。

文=杉瀬由希

撮影=村上圭一
前へ
次へ

【イベントレポート】 YAMAHA CREATIVE HACKATHON 2017 ヤマハ流モノづくりに出会う体験型イベント

“ヤマハらしさ”を形にする

 創業以来デザインを外部委託してきたヤマハ発動機が、満を持して社内にデザイン本部を設置したのは2012年。14年にはトヨタ自動車でプリウスやレクサスなどのデザイン開発を手がけた長屋明浩が本部長に就任し、ブランド部門も牽引しながらクリエイティブを核としたヤマハブランドの強化と改革を図ってきた。改革の根幹を成すのは、「発・悦・信・魅・結」の5文字に集約される “ヤマハらしさ”の追求だ。

 「オートバイはなくても困りませんが、暮らしを楽しくし、人生を豊かにします。ヤマハがつくるものは、たんに機能を満たして美しいというだけではなく、感動や喜びを生み出し、虜にするものでなければいけない。そのためにはプロダクトアウトかマーケットインかという従来の考え方ではなく、“プロダクトイン”の発想で提案型のモノづくりをしていくことが重要なのです」と長屋は語る。

長屋明浩(ヤマハ発動機執行役員デザイン本部本部長) 撮影=村上圭一

 同じブランドを共有する楽器のヤマハとの共同プロジェクトもそのようなモノづくりのひとつだ。もともとヤマハの社員にはそれぞれの領域を極めた遊びの達人が揃う。その豊かな感性とスキルをもとに、両社のデザイン部が共同でデザインを行った“音を奏でる電動アシスト車いす”や、たがいのフィールドを交換してデザインを提案した“動く楽器”“奏でるバイク”など、驚きと楽しさに満ちたコンセプトモデルを国内外で発表。モビリティと楽器の融合によるクリエイティブの可能性を探るとともに、社会における自らの価値や立ち位置を確認し、ヤマハらしさを体現する製品の開発に生かしている。

《project AH A MAY》。ヤマハの楽器デザイナーがバイク、ヤマハ発動機のバイクのデザイナーが楽器をデザインした

 今年1月にはオープンイノベーションを生み出す新デザイン拠点「ヤマハモーター イノベーションセンター」も完成。工程の上流からデザイナーと技術者がともに先行開発に取り組み、スタイリングにとどまらない根源的なデザインの創出を目指す。この開放感あふれる独創的な空間で、これからどんな化学反応が起きるのか。その成果が待たれるところだ。

新デザイン拠点・ヤマハモーター イノベーションセンター

身体表現としてのクリエーション

 ヤマハの理念を伝えながら、モノづくりに携わる若い世代を増やしたいと14年にスタートしたのが、デザイン系の学生たちが1泊2日の短時間で企画立案からモックアップ制作、プレゼンテーションまでを行う体験型イベント「ヤマハ・クリエイティブ・ハッカソン(YCH)」だ。今年も浜名湖畔で8月9日、10日に開催され、6チーム30名が「大自然を活き活きと駆け巡るモビリティ」をテーマに、プラスチック・ダンボールを用いて実際に水上で人が乗ることができるモビリティの制作に挑んだ。

 「体を使って考え、表現する、モノづくりの原点を体験してほしい。もうひとつは初対面の人とセッションし、一定の期間で成果を出すというプロの現場を疑似体験してもらうことが狙いです」と長屋。

初対面の相手とチームを組み、実際に手を動かして制作する 撮影=村上圭一

 まずはコンセプトをスケッチで発表。実現できたらさぞや楽しそうな各チームの案に、ヤマハサイドから「動力はどうするか」「重心は高すぎないか」など、実際に水上に浮いて乗れる仕様にするためのアドバイスが送られた。いざ造形に落とし込むと設計通りにはいかないことも多く、なかなか最終形が見えてこないチームもあったが、1日目の終盤には目途が立ち、どのチームもうまく役割分担して進めていたのが印象的だった。2日目は早朝から取りかかり、ラストスパート。9時の終了時には、“浮く”と“ドライブ”を両立したものや、イルカがジャンプする姿に着想を得たものなど、柔軟な発想力が光る力作が出揃った。

プレゼン時は、制作したモビリティに実際にプールで乗ってみせる 撮影=村上圭一

 プレゼンの結果、優勝したのは、機体を反転させると2種類の走行が楽しめるモビリティを制作したチーム。コンセプトの独創性や安定感のある美しい造形、エンジンの負荷を軽減する構造の工夫などが評価され、満場一致だった。年々レベルアップする作品に、ヤマハサイドは感心しきり。いっぽうの学生からは 「制限時間内に精度を高めるのが大変だった」「チームでものをつくる難しさと楽しさを実感できた」などの声が聞かれ、実りの多い2日間が幕を閉じた。

優秀作品に選ばれたモビリティ 撮影=村上圭一

 (『美術手帖』2017年10月号「ART NAVI」より)