Keith Haring: 360°

　中村キース・ヘリング美術館では、展覧会「Keith Haring: 360°」を開催。キース・ヘリングの多角的な芸術性と社会への深いメッセージを、360°のアングルで再考する。

　へリングは1980年代初頭、ニューヨークの地下鉄構内の空き広告スペースにチョークで描いた「サブウェイ・ドローイング」によって一躍有名になった。81年の初個展以前よりクラブやシアターなど画廊以外の場所でも自らキュレーションをして展覧会を開催するなど、その活動は多岐に及んだ。そしてドクメンタ7（1982）やヴェネチア・ビエンナーレ（1984）といった主要な国際展にも選出されるようになり、アーティストとしての地位が確立されていった。

　90年、エイズによる合併症のため31歳の若さで逝去したへリング。その作品には、子供たちへの支援、反戦・反核、人種やセクシュアリティーに対する差別撤廃、HIV・エイズ関連のアクティビズムなど、問題提起が多く含まれている。また美術史への深い洞察やテクノロジーへの強い関心など、へリングは空間軸や時間軸にとらわれない眼差しで世の中を描写した。

　本展では、彫刻作品《無題（犬の上でバランスをとる人）》（1989）を中心に展示。目を引くようなビビッドな作品で知られるヘリングの作品だが、本作は生のアルミ素材が渋い輝きを放ち、彫刻のまわりを一周してみると、見る角度で異なる像が現れる。その像は、時には人間と動物との共存関係や、測り知れない未知の社会に対する不安を思い起こさせることもあるだろう。

　また本展では、アーティストであり美術ジャーナリストの村田真が、82年から翌年にかけてニューヨークでヘリングに密着取材した際の一連の写真群を初公開。そのほか、防水布にペイントを施した絵画作品《無題KH.200》（1982、高知県立美術館蔵）、東京都多摩市で約500人の子供たちと描いた壁画《マイ・タウン》《平和Ⅰ-Ⅳ》（1987、多摩市文化振興財団蔵）、そしてアムステルダムで制作され、新たに同館のコレクションに加わった版画シリーズ「バッド・ボーイズ」（1986）全6点も披露する。