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石黒昭「銀色の月明かりの下で」

石黒昭 銀色の月明かりの下で - 秋吉台 2023 デジタルピグメントプリント

 アートフロントギャラリーで、石黒昭による個展「銀色の月明かりの下で」が開催されている。

 石黒昭は1974年神奈川県横浜市生まれ。表層の違和感に対するアプローチを軸に絵画、写真、立体、インスタレーション作品を制作し、国内外で発表している。

 以下、アーティスト・ステートメントとなる。

「2023年5月に初めて秋吉台を訪れた際に地表に現れているいくつもの石灰岩柱が地下では大きなひとつの石灰岩の塊であることに私は興味を持ちました。

 秋吉台は山口県美祢市秋芳町秋吉に位置する石灰岩でできている台地で、日本最大のカルスト地形として知られています。総面積は約100平方キロメートルに及び、場所によりその厚さは少なくとも1000メートル以上に達することがわかっています。

 時間を遡れば南方の温かい海でサンゴ礁として誕生した秋吉台は、約3億5000万年前の古生代石炭紀からペルム紀にかけて炭酸カルシウムの硬い殻を持つ生き物の遺骸が海底に堆積して石灰岩へと変化し、海から山へ数百メートルの厚さになるまで堆積していきます。そこへ雨水や土壌水に大気中の二酸化炭素が溶け込み弱酸性となった水が流れ込むことで石灰岩が溶食されて現在の地形になりました。さらに水分は石灰岩の岩盤を通り抜け、地下水に含まれた炭酸カルシウムが再び固まって鍾乳石が形成されます。石灰岩が水に溶けたり固まったりしてその姿を自在に変えて壮麗な地下空間をつくるのです。

 秋吉台の遮るものが何もない空と稜線の彼方まで続くゴツゴツした石灰岩柱の景色を歩いていると虫觀の視点で地球の表層に立っているような錯覚を覚えます。私の視界に収まりきらない自然を統計的な全体としてとらえたとき、その一部を写し撮ることで自分が地球上に存在していることを実感するのです。

 私は月明かりの下で長時間露光により秋吉台の同じ場所を撮影した6枚の写真を重ねあわせ、それぞれの露光時間を足した長さの映像作品を制作しました。また、フラッシュを焚くことにより意識的に画面にコントラストを与えて映像の手前の石灰岩へと視線を誘導します。それと同じ形の立体物を制作し、秋吉台で採れる数ある石灰岩のなかでも希少な淡雪の大理石柄を表面に描きました。この擬似石灰岩を映像と重ねあわせるようにして床や壁をスクリーンとして映像を投影します。

 暗室の中で照らし出された磨かれた擬似石灰岩は光を反射し鑑賞者を惹きつけますが近づくと彼ら自身の影により隠れてしまうでしょう。それは同様に現地の月明かりの下で私がその石灰岩を私自身の影で隠していることに気付いたという些細な出来事と重なります。そのわずかな時間に会場のプロジェクターの光は月の光に変わり、鑑賞者は私の気付きを追体験することになるでしょう。

 こうした現実と知覚のギャップを埋めながら、私たちの地球を形づくっている目に見える力と目に見えない力を想像していただければと思います」(展覧会ウェブサイトより)。