EXHIBITIONS

エルヴィン・ボハチュ

Erwin Bohatsch Untitled 2023 Acrylic, oil on canvas 135.1 × 100.4 cm
©Erwin Bohatsch. Courtesy of Taka Ishii Gallery / Photo:Jorit Aust

 タカ・イシイギャラリー 京橋で、エルヴィン・ボハチュによる個展が開催されている。

 エルヴィン・ボハチュは1951年オーストリアシュタイアーマルク州ミュルツツーシュラーク生まれ。1971年から76年までウィーン美術アカデミーで絵画を学び、現在ウィーンとヴェネチアを拠点として活動。

 ボハチュは、オーストリアの美術、とりわけ抽象画の歴史を先導してきた作家として知られている。日本国内かつ同廊での初個展となる本展では、近年の作品群から9点の絵画と13点の紙作品を紹介。

 ボハチュはその経歴を通じて独自の規範的な道を追究してきた。ボハチュの作品には、70年代後半から90年代にかけてオーストリアで展開していたアートの言説との密接な結びつきも見られる。80年代の初めに同国のアートシーンに登場したとき、ボハチュの絵画には「ニュー・ペインティング」のあらゆる特徴が備わっていた。そこでは様々なモチーフが有機的な形状と荒涼とした色彩で描写された。ボハチュは「ノイエ・マーレライ」(新しい絵画)グループの一員となり、新表現主義の作家として認知されたが、80年代の終わりまでにはこの潮流から離脱し、抽象的な還元へと足を踏み入れる。その画面からは物語的、具象的、表現的な絵画性が消え去り、この移行によって開放性と明瞭性への注力が如実となり、やがてそれはボハチュの成熟期の顕著な様式的特徴となる。

 線、形体、色彩、物質性が際立つ近年の作品が例証するのは、純粋主義的なアプローチだ。湾曲した色面、精細な線、活発な軌跡が組みあわさることで、豊かな緊張と律動を帯びたコンポジションが生み出される。土色や黒の領野に、緑、黄、青といった明るい色が限定的ながらも効果的に用いられている。ポーリングされ、ナイフで薄く伸ばされた色彩は半透明な層を形成し、空間的な深度の感覚を醸成すると同時に、部分的に重なりあうことで新しい形体を創出。複数の空間構造が広がるボハチュの作品は、鑑賞者に開放的な視覚経験を差し出す。