長谷川由貴、米村優人「自生するキメラ」

　BnA Alter Museumで「自生するキメラ」が開催されている。

　本展は、抑圧を内包するグリッドとそれが持つ神話の構造に着想を得て、絵画と彫刻という異なる表現媒体で活動するふたりのアーティスト、長谷川由貴と米村優人の作品を展示。

　ロザリンド・E・クラウスによる代表的な論考のひとつ『グリッド』（1978）のもと、本展では、人間の起源にある自生の過程（人は植物のように、大地から生まれた）に、人間ならざる存在としての「キメラ」（＊1）を差し込むことで、動物や植物、そしてそのセクシャリティーなど既存の生物的・社会的カテゴリーにおけるグリッドに揺さぶりをかけ、不安定化することを意図。

　人間中心的な価値観やものの見方をずらし、有用性といった物差しでほかの生き物を測ることから逃れるために、植物という他者を通して人間そのものの在り方を問う絵画を制作する長谷川由貴と、人智を超えた圧倒的な存在や、自身の個人的経験にもとづいた特定の人物への憧れや興味から、粘度、石、FRPなど多様な素材を用い制作する米村優人という異なる表現媒体を用いる両作家の作品が、会場で空間的な複数のスペクトラム（＊2）として展開。

　また、これに加えて、一部本展と会場を共有する特別展「多声性のトーチ」も同時開催している。

＊1──「異質同体」を指す。ギリシャ神話中の「体の前の部分はライオン、胴の部分は山羊、後ろは蛇、口からはさかんに火炎を吹く」という想像上の動物の名（キマイラ）に由来。
＊2──多様な分野・文脈で使用される連続体･分布範囲のことを指す語。ここでは変動している領域そのものを指す。