浦部裕紀「空き地は海に背を向けている」

　コミュニケーションギャラリーふげん社で、第三回ふげん社写真賞グランプリ受賞を記念した浦部裕紀による個展「空き地は海に背を向けている」が開催されている。本展にあわせ、同名写真集がふげん社より刊行。また、第三回ふげん社写真賞の準グランプリを受賞した中村千鶴子の個展「冬のスケッチ」も同館2階で同時開催中だ。

　浦部裕紀は1985年東京生まれ。2010年に早稲田大学創造理工学研究科建築学専攻修士課程を修了。大学院在学中に写真と出会い、以降はアルバイトをしながら自己の写真表現を追求し、第11回（2014）・第13回（2015）写真「1_WALL」ファイナリストに選出。2021年に開催された第一回「ふげん社写真賞」から毎年応募を重ね、2023年第三回「ふげん社写真賞」グランプリを受賞した。

　本作「空き地は海に背を向けている」は、2011年3月11日の東日本大震災に端を発している。幼少期から、予定調和な社会や、正しすぎる倫理に対して漠然と反発を覚えながらも、それらに対してどうしようもなさを抱えながら生きてきたという浦部は、「震災」から始まった自分の社会に対する違和感を、「当事者」ではない自らの立場も含め、そこから逃げずに初めて対峙したのが本作品となっている。

　日本で生活する者にとって、これからも大きな震災は必ず発生し、そこに被災地と非被災地、当事者と非当事者が生まれる。その時に自身はどのようにふるまうのか、どんな思いに駆られるのか、何をするのか、それについて思いを馳せる機会となる。