「Reborn-Art Festival 2021-22」が開幕。震災から10年、コロナ禍で問うものとは

東日本大震災で被災した宮城県・石巻地域を舞台に、今年で3回目の開催を迎えた総合芸術祭「Reborn-Art Festival」の夏会期がスタートした。23組のアーティストが参加し、「利他と流動性」をテーマに掲げた今回の芸術祭の見どころをレポートでお届けする。

名和晃平 White Deer(Oshika) 2017

 東日本大震災で被災した宮城県・石巻地域を舞台に、2017年より開催されてきたアート・音楽・食の総合芸術祭「Reborn-Art Festival」(RAF)が、その3回目の開催を迎えた。

 震災から10年という節目に開催される今回は「利他と流動性」をテーマに、21年夏会期(8月11日〜9月26日)と22年春会期(2022年4月23日〜6月5日)に分けて開催。夏会期のキュレーターを務めた窪田研二は、今回のテーマについて次のように語る。

「10年前に震災が起きて世界中の人たちが利他的な精神を持っていたが、それは10年経ってどんどん薄れていく。世界中で色々な分断が起きている現在、利他をあらためてクローズアップし、テーマとして掲げることは非常に重要だ。また、いま非常に硬直化している社会やコロナ禍でどうやってしなやかになれるのか、あるいは生命の循環のことを、私たちはもっと考えなければならない」。

MES サイ 2021

 夏会期は、石巻市街地、女川、桃浦、荻浜、小積、鮎川の6つのエリアで23組のアーティストが作品を展開。石巻市街地と女川では、人間の営みやアイデンティティ、他者との関係性など社会的な要素を含んだ作品が中心に紹介されており、自然豊かな牡鹿半島にある4エリアでは人間と自然との関係性をテーマにした作品が多く集まっている。

石巻市街地

 新しいアートスペースが続々と生まれ、再生が進んでいる石巻市街地。ここで、地元の人々にとってなじみ深い元銭湯やスケート場などを会場に、廣瀬智央、HouxoQue、大友良英、片山真理、雨宮庸介、MESなど10組のアーティストが作品を展示している。

 同エリアの象徴的な建物である旧観慶丸商店の2階では、廣瀬智央が実際のミントを使ったインスタレーションを発表し、清涼感あふれる空間が広がる。石巻を訪れる人の多くが足を運ぶ日和山公園にある旧レストランかしまでは、雨宮庸介が個人と社会、震災以前と以降、コロナ禍における社会などの要素を包括的に取り入れた映像インスタレーション《石巻13分》(2021)を展示。演劇的なインスタレーションを構築することで、人間の普遍的な意識や感覚をよみがえらせる。

廣瀬智央のインスタレーション
雨宮庸介 石巻13分 2021

 震災以降10年間、人の手が入らずに忘れられた廃墟を併設する旧千人風呂では、ディスプレイが発する人工光や水をメディウムとし、無垢にとらえられる復興の様相の背景に潜む根源を探るHouxoQueのインスタレーション《泉》(2021)が展示。昭和の香りを残す旧サウナ石巻では、「生きる・死なずにすむ・命をとりとめる・生き返る」など多様な意味を持つアイヌ語の言葉をタイトルに冠し、現代の日本におけるアイヌとしての作家自身の立場を見直すマユンキキの《SIKNU シㇰヌ》(2021)などがインストールされている。

HouxoQue 泉 2021
マユンキキ SIKNU シㇰヌ 2021

 石巻の小学生は必ず通うとも言われるプレナミヤギ アイススケート場では、アーティストデュオのバーバラ・ヴァーグナー&ベンジャミン・デ・ブルカが2019年のヴェネチア・ビエンナーレで発表した映像作品《Swinguerra》(2019)が展示。ブラジル北部の郊外に実在する3組のダンサーグループが登場し、人種や性別、アイデンティティなどの社会的な要素が強調される同作では、ブラジルの若者の現状を垣間見ることができる。

バーバラ・ヴァーグナー&ベンジャミン・デ・ブルカ Swinguerra 2019

女川駅周辺

 今年で初めて会場に加わった女川は、東日本大震災が引き起こした津波で壊滅的なダメージを受けた。窪田は、「その復興した様子を皆さんに見ていただきたいというのは、今回女川町をエリアとして付け加えた理由のひとつだ」と話す。

 元旦の初日の出が当たるように坂茂によって設計された女川駅舎の前に設置されたのは、会田誠の彫刻《考えない人》(2012)。女川の海に向かって、会田のオリジナルキャラクター「おにぎり仮面」がロダンの《考える人》や《弥勒菩薩半跏思惟像》を思わせる姿勢をとった本作では、日本人の楽観的でいい加減な面もあるという性質を投影している。

会田誠 考えない人 2012

 東日本大震災の津波で倒壊転倒した姿のまま残る旧女川交番遺構の前では、オノ・ヨーコが世界中で展開している参加型の作品で、鑑賞者が個人の願いを書いた短冊を木の枝に結ぶ《Wish Tree》(1996/2021)が展示。女川町海岸広場周辺では、加藤翼が震災で海に流された車を、地元民約100人の力で陸に引き上げる様子をとらえた映像《Surface》(2021)が上映されている。

オノ・ヨーコ Wish Tree 1996/2021
加藤翼 Surface 2021

牡鹿半島(桃浦、荻浜、小積、鮎川)

 牡鹿半島の最初の作品展示エリアは、牡蠣の養殖が盛んな漁村・桃浦。2018年に廃校となった旧荻浜小学校の校庭、倉庫、体育館などには、篠田太郎、サエボーグ、森本千絵×WOW×小林武史、岩根愛などの作品が点在している。

 音楽家でRAF実行委員長である小林武史らによるインスタレーション《forgive》(2021)は、同名の楽曲をモチーフに、震災から10年が経ったことやコロナ禍による非日常感を現実空間に置き換えようとするコレクティブ作品。岩根愛が石巻に1ヶ月半滞在して制作した映像作品《Coho Come Home》(2021)は、作家が高校時代を過ごしたカリフォルニア北部のマトール川流域と女川の銀鮭をめぐる2つの物語を交差させたものだ。

森本千絵×WOW×小林武史 forgive 2021
岩根愛 Coho Come Home 2021

 名和晃平の《White Deer(Oshika)》(2017)が設置されている荻浜エリアのホワイトシェルビーチの周辺では、森と海に生息する動植物の生態的サイクルを描いた小林万里子の《終わりのないよろこび》や、布施琳太郎が第二次世界大戦中につくられた秘匿壕(人工の洞窟)を舞台に展開したバルーンの作品《あなたと同じ形をしていたかった海を抱きしめて》、荻浜灯台一帯に出現した狩野哲郎のインスタレーション《21の特別な要求》(いずれも2021)、片山真理が自然の風景とともに撮影したセルフポートレート作品が集まっている。

小林万里子 終わりのないよろこび 2021
布施琳太郎 あなたと同じ形をしていたかった海を抱きしめて 2021
片山真理のセルフポートレート

 牡鹿半島の真ん中あたりに位置する小積エリアでは、RAF2019で同エリアに作品を展開した志賀理江子が栗原裕介、佐藤貴宏、菊池聡太朗とともに新作インスタレーション《億年分の今日》(2021)を発表した。

 小積浜の鹿肉解体処理施設「フェルメント」周辺を舞台に、エリア全体に広がる今回の作品では、湿地化した土地に空気を送るために溝が掘削されている。溝は山の麓へと結ばれ、その周辺には牡蠣殻や鹿の骨、掘り出された瓦礫など並ぶ。

志賀理江子+栗原裕介+佐藤貴宏+菊池聡太朗 億年分の今日 2021

 また、フェルメントの裏手には志賀が同施設を運営する食猟師・小野寺望とビオトープを制作。志賀がRAF2019で発表した作品に使われた立ち枯れた杉の木々と牡蠣殻は、それぞれ池の水門や薪、水質を改善するための底材として使用されている。

志賀理江子が食猟師・小野寺望とつくったビオトープ

 牡鹿半島の南端部にある鮎川エリアでは、島袋道浩が大量の白い砂利を使った《白い道》と、吉増剛造が窓から金華山が見える部屋のガラス窓に詩を書いた《roomキンカザン》(いずれも2019)といったRAF2019の2作品のみの展示となる。

「Reborn-Art Festival 2019」より、島袋道浩《白い道》(2019)

 東日本大震災から10年が経過し、そしてコロナ禍によって人々の営みが抑え込まれる状況が続くなかで今回の芸術祭を開催する意義について、小林武史は次のように述べている。

 「いま、コロナの状況のなかで世界中で色々な分断が起こっている。私たちが流動性のなかで様々な出会いのきっかけをつくること、それは全体とのつながりをイメージする利他的なセンスで、 この地域だけでなく、日本やまさに全世界にも通ずる。これからの世界のバランスをとっていかなくてはいけないというタイミングのなかで、この場所で(『Reborn-Art Festival』を)やり続けていくことは非常に意義があると思っている」。

 また、窪田はこう付け加える。「文化芸術は、人々の考えにオルタナティブな選択肢を付け加えることを可能にする分野だと思う。個々の人たちの未来の想像力が少しでも広がることによって、硬直化した社会が既定路線から外れることが可能になる。その意味でいまだからこそ芸術が必要なもので、『Reborn-Art Festival』が開催されたことは本当に重要なことだと思う」。

 新たな日常のなかで人間と自然との関係性に改めて向き合い、地域の内側からの復興と新しい循環を生み出すことを目指す「Reborn-Art Festival 2021-22」。その魅力をぜひ現地で体験してほしい。

編集部

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