EXHIBITIONS

多田圭佑「Phantom Emotion」

2023.09.30 - 11.08

多田圭佑 Painting of incomplete remains #116

 MAKI Galleryで、多田圭佑の個展「Phantom Emotion」が開催されている。

 多田は1986年愛知県名古屋市生まれ。多田は現実と仮構されたものの関係性、そしてその影響に強い関心を寄せている。「在ることと無いことのせめぎ合い」を自身のテーマに置き、現実とフィクションの間の曖昧な境界を横断し絵画を制作している。

 本展は、鑑賞者をバーチャル空間、そして現実と虚構のはざまへの旅に誘い出す。本展で展示される約100点におよぶ作品は、現実には存在しないにも関わらず歴史のどこかに存在していたことを思わせる風景、例えば荒野、岩肌、山、空、崩れた建造物、使われなくなった生活空間、動植物などをモチーフとし、冒険心を湧き立たせるとともに、どことなく憂いや寂しさを感じさせる。本来時間という概念がないバーチャル空間に存在する風景の上に、エイジング加工を施すことにより時間を捏造するという多田の仕掛けによって、永遠に広がり続けるバーチャル空間の中の無限さと、私たち人間の時間的、物質的有限さが対比され、その儚さが一層強調されるようにも思える。

 本展で展示される作品群には、フィクションの世界へ行きたい、その世界と関わりたいという欲望や希望、そして同時に二つの世界の間に存在する確固とした断絶を突きつけられる切なさや孤独感が共存する。多田自身がそうであるように、バーチャル空間のなかに入り込み、その世界観に魅了されるなかで生まれる感動や感情は、形容しがたくとらえどころのないものかもしれない。本展は、そんな幻かに思われるような感覚、感情に触れる稀有な空間をつくり出そうという試みとなる。