EXHIBITIONS

鈴木操 個展「fortune」

2023.08.25 - 09.10
 TAV GALLERYで鈴木操による個展「fortune」が開催されている。

 鈴木は1986年東京生まれ、2007年に文化服装学院を卒業。ユニセックスブランド BALMUNG と2021年の秋冬、2022 年の春夏シーズンでコラボレーションを行うなど、ファッションと彫刻という分野を跨いだ制作も続けている。15年に開催された初個展「記憶喪失の石灰」(TAVGALLERY)以来、漆喰を素材とした作品を発表し続けている。

 調湿性をもち、環境条件に応じて水分を吸収したり放出したりする漆喰は「呼吸する」と言われ、その原料である煆焼した石灰岩が「生石灰」とも呼ばれるように、石灰ないし漆喰という材質は「生命」と結びつけられてきた。16年に「私戦と風景」(原爆の図丸木美術館)で発表した《夜よりも長い蛭の群れ》で、鈴木は、柔らかく不定形な漆喰による造形を蛭という無脊椎動物に例えている。

 両者の共通項は「身体」と言えるが、歴史的に見れば、いずれにおいても想定されていたのは抽象的ないし理想的な人体であり、具体的な個人の身体は蔑ろにされてきた。アカデミックな彫刻の方法論が、西洋伝来の人体を前提とした造形論(アンソロポモルフィズム)の一環であるとすれば、伝統的に用いられてきた心棒や棕櫚縄は、脊椎動物の骨格のようである。また、従来の身体性を覆すような優れたファッションデザインが「身体的」というよりも「彫刻的」な実践であるとすれば、鈴木の制作は「身体的」でも「彫刻的」でもない、流動的な実存の表現に関わっていると言える。

 今回の個展では、漆喰と風船を使った「Deorganic Indication」シリーズを中心に、蛭というモチーフをつくり手の象徴である手と重ねた新作の写真シリーズ「分裂する蛭、私の手」もあわせて発表する。