荒木悠は1985年山形県生まれ。2007年にワシントン大学サム・フォックス視覚芸術学部美術学科彫刻専攻を卒業後、10年に東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像研究修士課程を修了。日本を拠点に世界各地で作品を制作し、現在は韓国・光州のACC(Asia Culture Center)で滞在制作を行っている。
16年2月には、横浜美術館でナッシュビルとギリシャの首都アテネにある「パルテノン神殿」をテーマにした個展を開催。また、同年10月には岡山で開催された「岡山芸術交流」で、祖父のルーツである倉敷市を拠点に制作した《利未記異聞》を発表。ある事物が他の土地へと伝播し、その過程で生じる変容や誤訳を伴いながら根付いていった物語に大きな関心を寄せてきた。
「Bivalvia: Act I|双殻綱:第一幕」と題された本展で荒木が見せるのは、カキの殻に着想を得た新作だ。
「Bivalvia」とは、分類学の父と呼ばれるカール・フォン・リンネによって分類された「双殻綱(二枚貝)」のラテン語学名。スペイン・ガリシア地方の海辺を歩いているときに見つけた、ヨーロッパヒラガキの殻に魅了されたという荒木。殻の表面の凸凹が「彫刻」と呼ばれていることや、「牡蠣」を意味する「Ostra」(スペイン語)の語源がギリシャ語の「骨」に由来していること、英語の「Oyster」には「寡黙な人」という意味合いがあることなどを知り、さらには「唄」という漢字が「口」と「貝」の象形から成り立っていることにも着目し、「唄と殻と人を巡る輪廻転生のオペラ」を構想するに至ったという。
本展では、今後シリーズとして展開される予定の「Bivalvia」の一幕として、スペインと韓国で撮影された新作映像と写真を中心に構成。「殻の間の空間」をメタファーにしつつ、「中身(具)」ではなく、徹底的にその「周縁(殻)や表面(彫刻)」にフォーカスした物語り方の創出を試みる。