1944年に岩手県盛岡市で生まれた菅木志雄は、多摩美術大学絵画科を卒業した68年以降、「もの派」グループの中心メンバーとして国内外で活動。世界中の美術館で個展が開催されてきたほか、グループ展や芸術祭にも数多く参加してきた。その作品は、東京都現代美術館をはじめとする国内の美術館をはじめ、テート・モダン(ロンドン)、ダラス美術館、ポンピドゥー・センター(パリ)、M+(香港)など世界中の美術館に所蔵されており、世界中からもっとも注目を集める作家のひとりだ。
菅はインド哲学などの東洋的思想に共鳴した自身の哲学を基に、石や木、金属といった「もの」同士や、空間、人との関係性に対して様々なアプローチをしかけ、「もの」の持つ存在の深淵を顕在化し、独自の地平を切り開いてきた。もの派への再評価が確固たるものになった今日においても、その思考を深化させて従来の認識概念を徹底的に問い直している。
菅は「もの」はたんなる「固体」や人間の主観による「客体」でなく、石も人間も物体感としては同じであり、ものと人間や思考は対等だと考える。通常見るものの在り方とは異なる方法で「もの」と「もの」、「もの」と「場」、「もの」と「人」をつなぎ、囲い、相互依存させ、まるでものが新たな形や状況まで立ち現わしているような作品を制作する。立体、平面、写真、映像と様々な手法を用いて多角的に、根源的な世界の在り方を抽出しようとしている。
そんな菅の個展が、東京都心のギャラリー3ヶ所で開催中だ。
東京・六本木の小山登美夫ギャラリーで開催されているのは、菅木志雄展「広げられた自空」。同ギャラリーでの個展は、17年の「分けられた指空性」以来7度目の開催となり、本展では最新作約20点を発表している。
また、東京・渋谷ヒカリエの8/ ART GALLERY/ Tomio Koyama Galleryでは「菅 木志雄 ー 写真と映像」
を開催。写真と映像作品、アクティヴェイションのドキュメント映像が展示されている。
それに加え、東京・銀座のGINZA SIXにあるアートギャラリーTHE CLUBで開催されている個展「放たれた縁在」では、金属の立体作品が展示中だ。
菅の展覧会が都心で同時開催されている貴重な機会。ものと空間、人の精神の支え合う関係や結びつきを示すことで、鑑賞者に自分がどういうものの見方をし、志向を持っているかという人間性への内省をも促す、菅の作品世界を包括的に体験できる。