菅木志雄は、1960年代末から70年代にかけて起こった芸術運動「もの派」のメンバーで、いまなお精力的に作品を発表しているアーティストの一人でもある。その作家活動は約50年にも及び、特に2016年から17年にかけては国際的な活躍を見せている。2017年5月13日から開催される、第57回ヴェネチア・ビエンナーレに選出されていることにも注目だ。
本展に際し、菅は以下のように語っている。
「<もの>のもの足り得るあり方に意識を向けると、そこには、どうしても『相依』している状況があらわれてくる。ひとつの<もの>や、<ある状態>を考えようとすると、自分が目指しているものだけでなく、もろもろの<もの>がつながってくる。やっかいなことに、それぞれの<もの>が、わたしが直接関与するかどうかにかかわらず、それぞれにリアルにあるべき存在性と現実感をかもしだしている。それらはそれなり性向をもち、そこにあるべき姿が、当然そこにあるべきことを主張している。単純に見える状態もあれば、複雑な様相を呈したものまであるが、それらは、『相依性』が基盤にある。ものによっては、わたしが使用しようとする<もの>に、直接かかわっているものもあれば、間接的にあって、見えかくれしているものまで種々である。ただ<ある>というのであれば、わたしはなんの苦労もなく、モノ(作品)を表わすことができるだろうが、なかなかそうはかない。なにしろ『相依性』という前提があるので、自らの位置をそのつどさがさなくてはならない。だからわたしは、いつも有の無の間でウロウロしているのである。」
(菅木志雄「有と無のあいだで」、2017年)
菅は「もの」を、目に見える物質や素材だけでなく、空間や人間の思考、概念などの抽象的なものも含むと考えている。「もの」と「もの」、あるいは「もの」と「人」の精神が支え合う関係にあるという世界観。鋭い眼差しで生み出された最新作は、バーチャルな世界に慣れきった現代人の意識に、新しい視点を投げかけてくれるかもしれない。