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櫛野展正連載「アウトサイドの隣人たち」:霧の中から立ち上がる命 【2/4ページ】

 その暗闇のなかで、彼は「時間が経てば治るんだ」と自分に言い聞かせ、ずっと先の未来の自分を想像しながら必死に耐えてきた。転機となったのは特別支援学校での活動だった。月・火・木と長時間行われる木工班での作業。電動鋸で木を切るといった無心の活動が、嫌なことを忘れさせてくれた。「少しずつ、気持ちが戻ってきたんです」と彼は振り返る。

 高校3年生になり、心はだいぶ落ち着いてきた。いまも週末は家で過ごし、学校にすごく仲の良い子がいるわけではない。周りの子たちの関心はゲームやスマホに向けられており、同じ趣味を持った相手もいない。学校では周囲に話を合わせるようにして過ごしており、「親友以下、友達以上。それ以上はいません」と大陸くんは語る。それは、人との距離感に悩み抜いた彼が辿り着いた、自分を守るための切実な境界線なのかもしれない。

 そんな大陸くんにとって、創作の原点は幼少期の「分解」にある。買ってもらったおもちゃをすぐに壊してしまうため、千恵さんは困り果てていたが、「壊したかったわけではない。組み立てられた内部の部品を見たい、仕組みを知りたいという欲求が勝っていたのだと思う」と千恵さんは当時を分析する。小学校の廊下を自作の段ボールの鎧で練り歩いた少年は、中学生になると段ボールや木材を使って武器などを制作するようになる。中学3年生の頃には、学校で余っていた木を削ってスコップや大きな爪楊枝をナイフで削り出すまでになった。

大きな爪楊枝

 やがて高校生になり、素材は「方眼紙」へと行き着く。段ボールだと切った断面にバリや穴が出てしまうが、画用紙の裏面であればより細かい加工ができると考えたからだ。驚くべきことに、大陸くんの制作に設計図や下書きは存在しない。すべては彼自身の感覚を頼りに進められていく。

 「大雑把なイメージはあるけど、霧の中にあるパーツのような感じ。頭の中で一度パーツを組み立ててみて、それを一つひとつ分解していく。うまく行ったらそのパーツを取り出して、現実につくっていくんです。部位を作ると鮮明になり、モヤが晴れて制作しやすくなる」。

岩田大陸さん

編集部